スポーツライター増島みどりのザ・スタジアム

2026年8月 2日 (日)

ヨコハマ・フットボール映画祭でドキュメンタリー「ジーコ:キンチーノの侍」上映 「FIFAはお金の心配がサッカーより上になっている。順序が逆だ。飲水タイムという名のお金儲けの仕組みが試合に組み込まれた」トークで今W杯を批判

 1日、「ヨコハマ・フットボール映画祭(横浜市港北区民文化センターミズキーホール)で『ジーコ:キンチーノの侍』(原題:Zico, O Samurai de Quintino)がプレミア上映が行われ満席となる大盛況のなか、ジーコ氏も登壇した。
「セレソン」(ブラジル代表)を長く取材するジャーナリスト、藤原清美さんと映画祭主催者の福島成人さんによるトークセッションで、ジーコはFIFA(国際サッカー連盟)が加盟団体との正当な議論をせず新会社「FIFAフォワード・エンタープライズ(FFE)」 の設立発表をするなど商業主義に加速する現状を「FIFAという団体は何よりもサッカーを優先するべきだ。しかし今のFIFAはお金の心配が本来優先すべき問題よりずっと上にある。順序が逆だ」と怒りをにじませた。
48チームへの拡大により試合のクオリティの維持、それによる選手の消耗や選手寿命へのインパクト、加えて今大会で初めて導入された「飲水タイム」の設置についても批判。「私は60年間サッカーをやっているが、脳や心肺の悲しい事故はあったが水を飲めなくて命の危機にあった選手はいない。なぜならいつでも自由に飲める準備がどのチームにもあるからだ。ところが今大会、給水という名前で3分間お金儲けの仕組みが出来上がっていた」とFIFAが今大会で見せたサッカーより優先させた収入増への動きに強い批判を加えた。
 こうした世界的な反論の勢いをジャンニ・インファンティノ会長は恐れたのか「FIFAフォワード・エンタープライズ(FFE)」の計画中止撤回を発表した。同会長は「FIFA加盟協会とサッカー界を世界規模で、特に支援を最も必要としている国々において、さらに強化するための基盤を築くことを目的としていた」と釈明。協議プロセスの不手際を謝罪した。

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      「伝記映画を並んで見つめるジーコ、サンドラ夫人、鈴木國弘さんの背中に覚えた深い感動」

 会場のファンの「ジーコ、ジーコ、ジーコ」のコールや、1991年の来日以来、長年通訳を務めた鈴木國弘氏(映画に証言者としても出演)ら「鹿島ファミリー」も集結するとても温かな雰囲気のなか、映画祭で(きょう2日まで)の特別な上映となった。
 「キンチーノ」はジーコが育ったリオデジャネイロの下町・キンチーノ地区を差し鉄道の駅名にもある。地名と同時に、世界でもっとも知られるサッカーのスーパーヒーローとなっても両親、きょうだい、妻のサンドラさんたちとの深い絆の「原点」として伝記映画のタイトルになったのだという。
 十分知っていると思い込んでいたジーコの偉大な足跡が貴重なフィルムや記事、ともに栄光を築いたチームメイト、ジャーナリストとの対話で息を吹き込まれるようにフィルムで鮮やかに浮かび上がってくる。

 「特別な理由じゃない。ただカシマに行こう、そう思った」と、当時の住金鹿島に加入した理由を鈴木満ゼネラルマネジャーの証言で振りかえるシーンや、マラカナン・スタジアムで史上最多ゴールをあげすでにサッカーにおけるすべての栄光を手にした夫に「工場(住金鹿島を鉄工所の工場と聞いたそうだ)のサッカーチームに行くなんて正気じゃない」と、反対したサンドラさん自身のインタビューなど「サッカーの神様」と呼ばれたフットボーラーの人間性に深く触れられる。
 ほかのドキュメンタリーと違うのは映画全編でサンバが流れる演出だった。「一度好きになったら一生フラメンゴ・・・」こんな明るいフレーズと踊りたくなるリズムが多くのシーンで刻まれている。
 選手生命に致命的な前十字じん帯損傷やW杯での後悔、鹿島でロッカーもシャワーもピッチもサポーターもいなかった時代から日本サッカーを引っ張った毎日。「サッカーは人々の喜び、悲しみ、生活とともにある」と話すジーコ哲学を明るく情熱的なサンバがもっとも効果的に印象づけてくれる。
 完成した映画をすでに何度か観ているはずのジーコ、サンドラさん、鈴木さん3人が私の前で並んで画面を見ている姿が、もしかするとJリーグの33年、そして新たに始まるシーズンをつなげる1本の太い絆なのだろう。映画とそれを来日から35年後、一緒に観ている3人の背中に胸がいっぱいになった。

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増島みどり プロフィール

1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年、フリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬五輪など現地で取材する。
98年フランスW杯代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」(文芸春秋)でミズノスポーツライター賞受賞、「GK論」(講談社)、「彼女たちの42・195キロ」(文芸春秋)、「100年目のオリンピアンたち」(角川書店)、「中田英寿 IN HIS TIME」(光文社)、「名波浩 夢の中まで左足」(ベースボールマガジン社)等著作も多数

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