スポーツライター増島みどりのザ・スタジアム

2026年6月19日 (金)

ボクシングライター・宮田有理子 W杯日本代表ナッシュビルキャンプから②「森保監督のストレートパンチの威力にノックアウトされる」練習会場での名刺1枚のやり取りから

 18日、10時45分から始まるトレーニングの1時間前に、日本代表ベースキャンプに到着した。すでにピッチでは、黒いチームウェアのスタッフが準備を始めていた。その中にいた森保一監督は、早くピッチに出ていた数名の記者に声をかけたりあいさつをしたりし歩く。初めてサッカーの、しかも日本代表の取材をする私にとって思いがけない挨拶の機会になった。
 監督は「いま名刺がないのですが」と言いながら、これから練習という状況にも関わらず、こちらの名刺を受け取ってくださった。まさかの展開にやっと、「ロサンゼルスでボクシング・ライターをしております」と絞り出すと、「ボクシングですか?」と、会話を続けてくれた。そして日本代表の中でサッカーをボクシングの局面に照らして語っているのだと言った。
 そのあともう一度、監督が名刺を手に私のところに戻ってきた。サッカーの何たるかも知らぬ初対面の一記者に渡す名刺を取りに、わざわざクラブハウスを往復してきたのだ。名刺を渡せただけでも舞い上がっているのに、名刺を取りに行っているとは、思いもよらぬ監督の行動にただただ圧倒された。そして、こんな短い会話で、ボクシング記者にサッカーの日本代表が目指す姿を示してみせた。
「我々がやろうとしているのは、ヘビー級に他の階級のボクサーが勝とう、ってことです。できると、思っています」。 
 ボクシングの世界では、小柄な強者を「リトル・ジャイアント」と称える。この指揮官なら、身を切る思いで選んだ選手たちとともに、世界に証明してみせるんじゃないか。監督の強烈なストレートパンチに、完全にKOされてしまった。

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増島みどり プロフィール

1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年、フリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬五輪など現地で取材する。
98年フランスW杯代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」(文芸春秋)でミズノスポーツライター賞受賞、「GK論」(講談社)、「彼女たちの42・195キロ」(文芸春秋)、「100年目のオリンピアンたち」(角川書店)、「中田英寿 IN HIS TIME」(光文社)、「名波浩 夢の中まで左足」(ベースボールマガジン社)等著作も多数

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