「スポンジの中の水を最後の一滴まで絞り切った日本代表の敗戦」ブラジルにアディショナルタイムの逆転でW杯敗退。5度目でも破れなかったトーナメント1回戦の壁 W杯日本代表の歴史は数ページ進めた大会に
延長がすぐそこに見えた時、ブラジルは2段3段とギアをあげた。
49分には右のCKから交代で入ったばかりのファビーニョにゴール正面でヘディングに合わせられる。これは枠を外れたが、51分、エンドリッキを起点に素早いパス交換からギマランイスへ。エリア手前、中央から縦パスを入れると、ガブリエウマルティネッリが受け右足でゴールへ流し込む。この試合で初めてブラジルが先行して56分に試合が終了。あと1分ほどで延長戦に入るところだった。
前半、佐野のボール奪取から伊東、上田がスペースを取る連携を見せたショートカウンターで先制ゴールを奪って先行した試合は善戦ではなく、本気の王国に挑む一戦だった。しかし02年日韓大会でのトルコ戦(0-1)、10年南ア大会でのパラグアイ戦(PK戦)、18年のベルギー戦(2-3)、そして前回カタール大会のクロアチア戦(PK戦)と過去4度も跳ね返されてきたトーナメント1回戦の分厚い壁にまたも跳ね返され、力尽きた選手たちはピッチに倒れ、日本代表のW杯が終った。
ブラジル戦に臨む前日会見で森保監督は「以前は勝率0%だったが我々にも勝つチャンスはある。厳しい戦いに全力でチャレンジする」と話し、前半はその言葉通りブラジルを上回って折り返す。ゴールを奪った佐野の、スウェーデン戦でも驚異の95回のスプリントを記録しこの日も78回と魂の激走でブラジルを苦しめた前田の魂の激走、佐野の相手ボールへのプレス数も両チームトップの70回と、今大会世界に示した「チームへの献身と運動量のクオリティ」を切札にブラジルを相手に真正面から組んだ。
昨年は南野が膝の手術でW杯を断念し、大会前には三笘がリーグ戦でケガを負いW杯に出場できなかった。そしてGLオランダとの初戦では、前回大会で体調を崩した分悔しさを晴らそうと挑んだ久保がケガを負い今大会でプレーできなくなり、日本がこの4年挑み続けた強豪相手にも自分たちでボールを持って攻撃するための有力な選手たちが次々と奪われていく苦しい事態に見舞われた。大会3日前には遠藤主将もケガが回復しなかったために町野とメンバーを交代。4年間で大きく成長した「個の力」の強度が逆にけがを生むリスクにつながる厳しい結果となった。
一方でこうした苦しい事情のなかで「誰が出ても戦える」「全員で戦い抜く」日本代表の持ち味が逆に磨かれていった。今大会、忍耐強く日々のトレーニングに臨んだGK早川と大迫を除くフィールドプレーヤー24人全員が出場。第一に、過去のW杯ではできなかった幅広い選手起用は、日本の今後にとって大きな収獲に。4試合の総得点も8点とこれまででもっとも多くゴールを奪った。
次にW杯で過去1勝しかできなかった2戦目の壁を乗り越えたのも今大会の大きな収獲だ。また長友の5大会連続出場でW杯で敬意を集める世界的な選手の存在も広く知られた。
3大会連続でGLを突破しW杯における日本の存在感、「組織力や忍耐強さ」といった代表の看板を定着させ世界中にファンを広げたことも森保監督の8年が生んだ収獲だ。
監督は試合後、「選手たちが想定外のアクシデント、全てを乗り越えてくれた。(攻撃陣の不在が)チームの戦い方に影響したのは事実。しかしネガティブに考えるのではなく、そのことで、組織で戦う日本の良さが出せたと思う」と話し、いくつものアクシデントが組織力を熟成させたとした。現在の代表が持てる戦力、コーチ陣の経験や戦術理論、分析班の綿密なデータ、1%でも勝てる確率をあげる、として臨んだスタッフを含めたチームの準備力、監督の決断・・・全ての力を凝縮させ、しみこませてきた代表という名のスポンジの水を、本当に最後の最後の1滴まで絞り切ったはずだ。何が足りなかったのか、といった話よりも、スポンジの水を本当に全て絞り切っての戦い抜いた4試合に敬意を抱く。
24人出場、過去最多の8得点、2戦目の壁、世界的レジェンドの誕生、3大会連続決勝トーナメント出場と歴史のページを次々とめくったが、ページは飛ばせないし一気にはめくれないとも改めて示された。4年ごとに出される宿題の答えは毎回この舞台に帰ってきて自分たちで確認しなければならない。今回もまた、「トーナメント1回戦を勝ち抜くには?」と、過去と同じ宿題が出された現実は重く、4年後こそ回答を持っていかなくてはならい。
ブラジル戦でW杯通算29試合目。歴代優勝国8カ国に比べればまだまだ少ない。経験値も浅い。今回目指した優勝のためにはどんなに苦い敗戦も受け入れて、また試合を積み重ねるしかないのだろう。W杯通算30試合目、33ゴール目に向かって。
〇・・・森保監督は仕合後の会見で「日本が次に目指すのはアジア大会、アジアカップと大陸のチャンピオン」と発言したが、自らの去就ではなく主語は日本代表。「まだ何も決まったいない」と言うにとどめた。


