スポーツライター増島みどりのザ・スタジアム

2026年2月21日 (土)

スピードスケート高木美帆 ヨハンコーチと抱き合うゴールは「GOLD」ではなかったけれど・・・日本が誇るアスリート、トップスケーターはまさに「GOAT」

 高木美帆がヨハン・デビッドコーチの肩に顔を埋めて涙をポロポロこぼしている姿は、3つのメダルを獲得した瞬間や表彰台の様子よりも彼女の大会を象徴するシーンに見えた。たとえ2人が何よりも望んだ「ゴール」ではなかったとしても、3年の道のりがやっとゴールを迎えた安堵や寂しさ、色々な感情が混じっていたのではないか。
 2010年バンクーバ五輪に15歳の史上最年少(日本のスピードスケート)で出場したまだあどけなかった中学生は、出場できなかったソチ五輪をバネにアスリートとして立ち上がった。女性として、トップスケーターとして平昌、北京で金メダルを含み日本の女子スポーツ選手の頂点に立つ。そして経営者にも似た重大な責任を負い「チームゴールド」のプロジェクトリーダーとしてもミラノに挑んだ。 
 

 2023年4月、2人とチームがミラノに向かってそのスタートを切った日を取材していた。

 14年のソチ五輪でメダルゼロに終わったスピードスケート連盟はかつてない危機感を持ってオランダ出身のヨハン氏を15年に招へい。ナショナルチームのオールラウンド部門の指導から平昌五輪からはヘッド―コーチとして日本スピードスケートの世界的復活をけん引した名将だ。しかし22年の北京五輪で契約満了となり、高木はコーチと共に北京五輪代表の佐藤綾乃(ANA)、村上右磨(高堂建設)らと

「teamGOLD」で活動すると発表した直後だった。
 ヨハンコーチは、スポーツメーカーの「ミズノ」が優れた指導者を選出する「2022年度ミズノ・スポーツメントール賞」を受賞。都内ホテルで行われた表彰式には前例のないチャレンジを発表したばかりの高木も同行していた。
 「オランダから来て当初は想像もできなかった素晴らしいキャリアを日本で築かせてもらった。全ては私をここに立たせてくれた選手たちのお陰です。このような立派な賞を日本で頂戴することができ、人生においても忘れ得ないものとなりました」
 コーチの言葉にひときわ大きな拍手を壇上に送った高木には、これからプロとして背負うものの大きさや不安、何よりもコーチと踏み出すミラノへの新たな一歩への高揚感があふれているように見えた。


 20代の女性が「チーム」を背負ってプロになる決断にはどれほど勇気がいっただろう。高木にとって最終種目の「ゴール」は「ゴールド」ではなかったけれど、コーチとともに、チームメイトとともに未知の氷へと滑り出した3年、2人とも「よくぞやり切った」と互いに確かめていたのだと思う。
 「GOLD」ではないけれど、世界中から称賛される日本が誇るアスリートには「GOAT」ーGreatest Of All Timeがふさわしい。 

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増島みどり プロフィール

1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年、フリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬五輪など現地で取材する。
98年フランスW杯代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」(文芸春秋)でミズノスポーツライター賞受賞、「GK論」(講談社)、「彼女たちの42・195キロ」(文芸春秋)、「100年目のオリンピアンたち」(角川書店)、「中田英寿 IN HIS TIME」(光文社)、「名波浩 夢の中まで左足」(ベースボールマガジン社)等著作も多数

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