スポーツライター増島みどりのザ・スタジアム

2025年10月15日 (水)

サッカー日本代表 14度目にして初めてもぎ取った歴史的な’勝ち’と、ブラジルに真っ向勝負で大逆転を果たした後半の’価値’

1989年、その相手から1勝するために36年、14回もチャレンジしなくてはならない厳しい戦いが始まった。それがどれほど厳しいかに気付くのにも何年もかかってしまったし、11敗をほとんど取材した記者はもしかするともう勝てないのかとも思った。
 しかし14日、満員のスタジアムの声を背に日本代表は36年かけてついにサッカー王国ブラジルから初勝利をあげた。選手同様に高い強度のベンチワークを見せた森保一監督、名波浩コーチ、斉藤俊秀コーチ、GK下田コーチ4人ともが王国ブラジルに対し辛酸をなめた時代の経験者だったのも不思議な巡り合わせだろうか。これで森保監督指揮下でウルグアイ、ドイツ、スペインに続きW杯優勝国から勝利をあげる結果となった。
 2点を先行された後半、森保監督はハーフタイムの様子を会見で「選手が冷静だった」と振り返る。22年のカタールW杯でドイツ、スペインを破ったのと同じ後半の大逆転は、しかしドイツ、スペイン戦とは異なっていた。W杯では引いてカウンターをしかける戦いに転じた対応力を見せたが、この日は後半から高い位置からアグレッシブにボールを奪う真っ向勝負を選び、やり遂げた。
 南野は「(後半)マンツーマン気味ではめてミスを誘うのが狙いだった」と狙いを明かす。ゴール前で相手のパスミスを拾い反撃の狼煙をあげるゴールを奪った。チーム全体に勇気を与える1点は、その後、日本に勢いを与え、反対にブラジルから自信を失わせた。伊東がクロスから中村のボレーをアシストしてこれで同点。一気に伊東のCKからエース上田がヘディングを決めわずか19分でブラジルを大逆転。CL5度の優勝を果たし、W杯6度目の優勝を狙う名将アンチェロッティさえ、ベンチ前で指示を忘れてぼうぜんと立ち尽くしていた姿が試合を象徴した。
 パラグアイ、ブラジルとW杯出場を決めた南米の強豪国との10月シリーズ2戦、主将で守備の要でもある遠藤、DFでも多くの主力を欠いて臨むことになった。森保監督はそれでも「どんな状況であってもそれが今のベスト」と、ある状態を受け入れアジャストするマネージメントを徹底。その結果、試合ごとに経験値の浅かった選手が自信をつけプレーの幅を広げた。
 「諦めない、ではなく最後まで粘る。自分たちから崩れたり試合を投げるようなことを絶対にしない」と、監督の信条を体現する日本代表のメンタリティも、こうした苦境でむしろ磨きをかけた印象だ。「(26年)北中米W杯で優勝を狙う」と目線を高く上げた代表にとって、「その先」が遠くにでも確実に見える、そんな1勝となった。

 

 

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増島みどり プロフィール

1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年、フリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬五輪など現地で取材する。
98年フランスW杯代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」(文芸春秋)でミズノスポーツライター賞受賞、「GK論」(講談社)、「彼女たちの42・195キロ」(文芸春秋)、「100年目のオリンピアンたち」(角川書店)、「中田英寿 IN HIS TIME」(光文社)、「名波浩 夢の中まで左足」(ベースボールマガジン社)等著作も多数

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