スポーツライター増島みどりのザ・スタジアム

2025年9月 5日 (金)

13日開幕東京世界陸上 壮行会と公開練習開催 「もう諦めようかな、と思うほど世界が遠かった」男子円盤投げで先天性の聴覚障害を持ちながら世界陸上出場を叶えた湯上剛輝  

4日=国立競技場 13日に開幕する東京世界陸上の日本選手壮行会が都内ホテルで行われ、80人の代表選手(男子49人・女子31人)のうち、男子28、女子17人がコーチ陣らとともに出席した。新型コロナウイルス感染症のパンデミックによって2020年以降、21年東京五輪、22年のオレゴン世界陸上、23年のブタペスト世界陸上、24年パリ五輪と、陸上チームがこうした壮行会や結団式で一堂に会する機会がなかったため、2019年のドーハ世界陸上以来6年ぶりのリアル開催に。 その分、選手たちの高揚感や緊張感が伝わる壮行会となった。
 34年前、女子マラソンの代表として東京世界陸上4位と華々しい国際デビューを果たし、またも東京世界陸上で、今度は「会長デビュー」を各国にアピールする有森裕子会長(58)は「会長になりたての・・・」と、会場を笑わせ、選手の控室に入ろうとしたところ自信を持って大会に臨もうとする選手たちのオーラに圧倒されてしまい入室できなかった、と壮行会前のエピソードを披露。「自国開催で応援が直接届くので、圧を感じる選手もいるかもしれないが、マイナスの要素はほとんどない。皆さんの気持ち次第。全てを力にして最高のステージで世界に、自らにチャレンジする皆さんを待っています」と、元トップランナーらしい生きた言葉で選手にエールを送った。壮行会後には、国立競技場で公開練習が行われた。

              「もう諦めようかな、と思うほど世界が遠かった」

この日集まった代表選手45人の中に1人、耳に骨伝導式のイヤホンをつけて壮行会に臨んだ選手がいる。円盤投げの日本記録(64㍍48)保持者、湯上剛輝(ゆがみ・まさてる トヨタ自動車)は、32歳にして最高峰の「世界陸上」へ初出場を決めた。先天性の重度の聴覚障害を持ち、デフの選手として世界陸上出場を初めて叶えた。また、11月に行われるデフリンピックへの出場もすでに決めており、地元で行われるビッグイベント2大会に出場する最高の舞台が回ってきた。
 壮行会と国立競技場の下見を終えた後、取材にイヤホンを左耳に付けて対応した湯上は代表が一堂に会した壮行会の感想を「(世界陸上は)夢だった場所。壮行会の間、本当にここに立てて光栄だな、と思っていました。初めての世界選手権が日本で、東京で、国立競技場・・・初めてデフで世界陸上に出場したアスリートになれた」と、感慨を込めて32歳での初出場の感激を噛みしめた。
 生まれつき重度の難聴を抱え、小学校6年生で人工内耳の手術を受けた。滋賀の守山高校で競技を始め、中京大に進学してからは、ハンマー投げのアテネ五輪金メダリスト、室伏広治氏(スポーツ庁長官)の父・重信氏の指導を受けて実力を堅実に伸ばしてきた。18年の日本選手権で日本記録を3度更新する最高の投てきを見せて注目されたが、そこから国際大会の代表には手が届かなかった。「世界は近い、と思えたのにそこから世界とのレベルの差を感じて悔しくて・・・もう諦めようかなと思うほどだった」という。
 周囲の支えを力に、今年4月にはアメリカの試合で5年ぶりとなる日本記録をマーク。東京世界陸上の開催国枠派遣設定記録(62m60)を突破し代表入りを待っていた。
試合中はイヤホンを外すルールだが、湯上は「(国立の)スタジアムの盛り上がりは分かる」と笑顔を見せた。円盤投げは20日に予選、21日に決勝が行われる。

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増島みどり プロフィール

1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年、フリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬五輪など現地で取材する。
98年フランスW杯代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」(文芸春秋)でミズノスポーツライター賞受賞、「GK論」(講談社)、「彼女たちの42・195キロ」(文芸春秋)、「100年目のオリンピアンたち」(角川書店)、「中田英寿 IN HIS TIME」(光文社)、「名波浩 夢の中まで左足」(ベースボールマガジン社)等著作も多数

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