スポーツライター増島みどりのザ・スタジアム

2024年11月 3日 (日)

「サッカーでしか、フットボールでしか感じられないパッションがあった」森保監督 史上最高のゲームにコメント

 3バックの堅守速攻で豊富な運動量と、クラブとしての経験を存分に活かしたサッカーを展開する名古屋と、アルベル・前監督時代から松橋力蔵監督に受け継がれた「ボールを愛するサッカー」の言葉通り、決勝でも62%のポゼッションでパスとクラブの夢をつないだ新潟ともに、「軸足」を少しも動かさずにタイトルを争った。
 試合途中から雨が激しくなり足元もコントロールしづらく、もちろんエキサイトしたゲームだったが、イエローカードが出ていない。
 持ち味を出し切ったのは選手だけではなくサポーターも同じだった。冷たい雨のなか選手への声援を切らすことなく、一方で相手選手や審判へのブーイングは聞こえなかった。
 サッカーの持ち味、フェアプレー、サポーターとの一体感。すべてが完璧に生み出されたぜい沢な空間を試合後、視察していた森保一監督は「インテンシティ(強度)も、技術もサッカーの最高の魅力があった。サッカーでしか、フットボールでしか感じられないパッションのある試合だった」と、ナビスコ、ルヴァン史上最高の試合だと声を弾ませた。

 松橋監督は試合後、Jリーグ参加26年での主要初タイトルを逸した点について「タイトルは残念ながら獲れなかったが、苦しい時でもどんな時でも見捨てずにサポートしてくれる方々のために少しは良い景色を見せてあげることはできたのかな、と思う」と話した。途中交代で2得点をあげた小見洋太について聞かれると「(小見と奥村仁の交代時に)お前ら若い力でひっくりかえしてこい!そういう言葉を伝え、しっかりやってのけた。本当に凄い」と喜んだ。
 ミックスゾーンで4重にもなる記者に囲まれた小見は「とにかく仕掛けて、1点取ったら変わる、と監督に言われて入った。一皮むけるなら今日しかないと挑んだので結果を1つ残せてよかった」と悔しさと安堵が混じったように口を固く結んでいた。このところ不調だったという22歳は「延長がもしあと20分あったとしても走り切って勝ちたかった。(この試合の個人としての収穫は?と聞かれ)こんなに悔しい思いを味わったこと。そしてこれだけの舞台で冷静にゴールできたことです」と質問者が1人になりさらに最後の質問となるまで丁寧に答えていた。右手にはずっと、移動中に食べるために配布されたのか弁当を持ったままの姿がどこか初々しくユーモラスで。
 クラブにとってタイトルは大きな財産となる。しかし、悔しさ、無念さ、敗戦、それをファンと共有するのもまたクラブの得難い財産なのだと教えてくれる両クラブのフットボールだった。日本代表が戦うW杯アジア最終予選(11月はインドネシアと中国戦で年内6試合を終了)代表発表も近く行われる。こういう試合が日本サッカーと代表の背中を押してくれる。

[ 前のページ ] [ 次のページ ]

このページの先頭へ

スポーツを読み、語り、楽しむサイト THE STADIUM

増島みどり プロフィール

1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年、フリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬五輪など現地で取材する。
98年フランスW杯代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」(文芸春秋)でミズノスポーツライター賞受賞、「GK論」(講談社)、「彼女たちの42・195キロ」(文芸春秋)、「100年目のオリンピアンたち」(角川書店)、「中田英寿 IN HIS TIME」(光文社)、「名波浩 夢の中まで左足」(ベースボールマガジン社)等著作も多数

最新記事

カテゴリー

スペシャルインタビュー「ロンドンで咲く-なでしこたちの挑戦」