スポーツライター増島みどりのザ・スタジアム

2024年11月11日 (月)

11月11日サッカーの日に、慌ただしくて予想不可能でだけど面白くて・・・サッカー取材を考える

10日はDAZNのJ2・4分割画面を90分観ながら、途中でJ3の今治と鳥取の試合も追う。年齢に対する90分の集中力を試されたような気がする。キビシイ。
 横浜FCが1年でのJ1復帰を決め、四方田修平監督の堅かった顔がほぐれている様子にホッとする。「サポーターに(アウェーに来てもらう)お金を使わせちゃったんですけれど・・・」と笑ってサポーター席に頭を下げた。中村俊輔コーチは記念写真の一番端に目立たないようポジション取りする。
 今治の服部年宏監督が就任1年目での昇格に選手やスタッフと握手を交わしながら、しかし笑わない様子に、「まだまだって思っているんだろうか?ハットらしいな」などと想像して急ぎお祝いのメッセージを送る。
 今治のオーナーに就任して10年で悲願のJ2昇格を決めた岡田武史氏の姿もスタンドで関係者と握手しているのが見えた。97年の「ジョホールバルの歓喜」で日本サッカー界悲願のW杯出場をもぎ取った日本代表監督は、SNSもなく自宅に直接嫌がらせや時に脅迫が来るなど想像を絶するピッチ外のプレッシャーにも打ち克ったあの経験をこう言う。
 「人間は、追い込まれて退路を断った時こそ遺伝子にスイッチが入って本気で仕事に向かえる」と表現する。岡田さんの場合、スイッチは一度も切っていないところがまた凄まじい。
 この日の登場人物たちは皆、日本サッカーにとって高く、大きく、分厚い「W杯」という壁を心身の全てをぶつけて突破した先駆者たちだった。

 服部監督は「岡田さんとの仕事が本当に勉強になった。例えばシーズン中に他チームの分析をしていると、岡田さんはあのチームの年間の傾向は、とか、雰囲気といった目に見えないところをアドバイスしてくれた。歴代の監督には(岡田さんが)遠慮して多くを助言しないスタンスだったようだけれど、自分は気が付いたことは何でも言って下さい、と。本当に改めて、やっぱりすごいな、と思いました」と言う。
 四方田監督は、90年代、今でいう「スカウティング担当」。今では当たり前となったが97年、98年は他国のデータ招集や分析が今のように可能な時代ではなかったので四方田大学院生
は苦労の連続だった。影山・現技術委員長と作成したデータを岡田(当時)監督、選手は信頼した。
 それぞれの
画面を見ながら、あの時の「点」を、彼らはサッカー界の道標にもなる道に変えたと理解できた。

 こんなに忙しいサッカー観戦はそうないのに、終わってぐったりする間もなく今度は羽田空港へ飛び出した。10日朝、15日のW杯最終予選に向かってインドネシア・ジャカルタに出発、したはずの日本代表が離陸から30分ほどで機体トラブルで羽田に引き返し、もう一度「出発し直す」と、代表プレスオフィサーからの異例の連絡を受けた。
 空港ロビーでただ目の前を監督とコーチ、スタッフ、選手が通り過ぎるだけの「取材」だったが、それも面白い。
 名波コーチは「ハット(服部監督)にさ、電話でおめでとうって言ったよ」と言うと「アウェーの洗礼受けているよねぇ」と笑い、背中を向けたまま手を振った。
 森保監督は歩きながら「想定外の想定外」と、「想定外には備えているがさらに想定外も起きるもの」とばかり航空会社をも気遣うユーモアで表現した、と思ったら、「想定外も想定内(常に準備している)」と言った、と11日訂正が入った。カントク、聞き違い、ジャカルタで謝ります。でも「想定外を想定内にしようと常に準備している」監督とスタッフのマネージメントは十分分かっている。
 22時を過ぎ、空港から日曜の首都高で帰宅する途中、あまりに慌ただしい一日に「全くサッカーってヤツは・・・」と笑ってしまった。
 11月11日は11対11で「サッカーの日」でもあるそうだ。夜の国立競技場では平日のJFL開催にもかかわらず、新宿クリアソン対鈴鹿の試合を1万4907人が観戦したという。この日にもっともふさわしいカズは、プロ40年目となる来季も鈴鹿でピッチに立つ、と決めいまだ疾走中。

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増島みどり プロフィール

1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年、フリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬五輪など現地で取材する。
98年フランスW杯代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」(文芸春秋)でミズノスポーツライター賞受賞、「GK論」(講談社)、「彼女たちの42・195キロ」(文芸春秋)、「100年目のオリンピアンたち」(角川書店)、「中田英寿 IN HIS TIME」(光文社)、「名波浩 夢の中まで左足」(ベースボールマガジン社)等著作も多数

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