スポーツライター増島みどりのザ・スタジアム

2024年7月27日 (土)

パリ五輪女子サッカー カウンター?やれるものならどうぞ、とばかりに昨年の0-4の屈辱の借りを返したスペインに、シュート4本と圧倒されたなでしこジャパン

 12年のロンドン五輪以来のメダル獲得(銀)を目指すサッカーの女子日本代表「なでしこジャパン」は25日にフランス・ナントで行われたパリ五輪グループリーグ初戦で、昨年の女子W杯で初優勝を果たした世界の「新女王」スペインと対戦し1-2と逆転負けを喫した。
 18歳の古賀塔子をDFに起用し4バックでスタート、前半13分には藤野あおばのFKで先制し1-1で折り返した。後半は4バックを3バック(5バック)に変更して流れを変えようとしたが後半21分にはDFでサイドで好守の要となってきた清水梨紗が負傷交代するアクシデントに見舞われ、後半29分に逆転された。

 なでしこジャパンが五輪初戦で勝ち点を奪えなかったのは、不出場だった2000年シドニー、2016年リオの両五輪を除くと初出場(初開催)した96年アトランタ五輪以来(ドイツに2-3)。
 五輪復帰を果たした04年アテネでは優勝候補の一角だったスウェーデンに1-0と金星をあげ(ノックアウトステージには進出できず)、メダルにもっとも近づいた08年北京五輪(4強)もニュージーランドと引き分けた。11年のW杯ドイツ大会を制し、女王として臨んだ12年ロンドン五輪ではカナダに2-1で勝利し、20年東京(21年)はカナダに1-1で引き分けるなど、アトランタ以降、初戦では必ず勝ち点と勢いを手にしてきた。
 一方、昨年の女子W杯で初優勝したスペインにとって、大会で唯一敗れたのがなでしこ。ともに2試合目でトーナメント進出を決めていた状況でのグループ3戦目、スペインのボール保持力に対してなでしこは引いてカウンターを狙った。0-4と完敗したこの試合の「ケリ」を、1年かけてつけられた試合となった。

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 試合開始直前、両チームは円陣を組んだ。なでしこはベンチにいたスタッフも含めた全員でまず大きな輪を作り、さらにピッチに入った先発と、同時にベンチと両方で円陣を組む「儀式」でホイッスルを待つ。スペインは対照的に先発の選手が円陣を組んだ。人数も異なるものの円陣はとても小さく、選手たちの顔は接触するほど近かった。そんな「ぎゅっと」固まった円陣を見て思い出したのは1年前の女子W杯、ミックスゾーンの場面だ。
 グループリーグの第3戦、お互いにすでにノックアウトステージへの進出を決めている中、なでしこはスペインのボール保持に対して引いてカウンター攻撃を仕掛ける戦術を取った。0-4の結果に、スペインのほぼ全員が無言で、怒りを噛みしめる表情でミックスゾーンでのコメントを拒否したが、10番のエルモソが英語の問いに立ち止まってくれた。
 「私たちにとって予想外の形での敗戦になった。でももう一度、この大会で日本に勝つチャンスはある。それを目指そう、そして優勝を手にしようとロッカーで団結しました」と言った姿を、小さな円陣で思い出した。
 勝ち上がったスペインに対し日本はスウェーデンに1-2で負け8強で敗退。再戦はかなわなかった。スペイン女子はその後、初優勝を果たした栄えあるセレモニーで選手への会長による「合意なきキス事件」協会の不正、代表監督の交代など様々な困難に見舞われたが、それでも「日本に必ず勝つ」というピッチへの思いはずっと温めていたのだろう。それを目の当たりにした初戦だった。
 前日の会見で熊谷主将は過去の経験から「初戦のプレッシャーや緊張は特別。初戦がいかに重要かを伝えられれば」と話し、「スペインもこの試合に特別な思いで来るだろう」とベテランらしく警戒を忘れなかった。
 それでもすさまじいパスに日本はどんどん後ろに下がらざるを得ず、ボール保持率は3割ほどに抑えられ、シュートはスペインの12本に対しわずか4本。日本にカウンターに持ち込まれる前に「カウンター?できるものならどうぞ」と言わんばかりだった。五輪初戦というより、スペインは世界一に輝いた女王としての自分たちのサッカーを堂々と、日本に、世界に示そうとした初戦だった。11年にW杯を初めて制し、12年のロンドン五輪に臨んだなでしこジャパンと同じだ。
 敗れたが、トーナメントに進出するチャンスはまだまだ十分にある。中2日の日程の厳しい日程だが、早く切り替えができると味方に付けることもできる。

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増島みどり プロフィール

1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年、フリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬五輪など現地で取材する。
98年フランスW杯代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」(文芸春秋)でミズノスポーツライター賞受賞、「GK論」(講談社)、「彼女たちの42・195キロ」(文芸春秋)、「100年目のオリンピアンたち」(角川書店)、「中田英寿 IN HIS TIME」(光文社)、「名波浩 夢の中まで左足」(ベースボールマガジン社)等著作も多数

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