スポーツライター増島みどりのザ・スタジアム

2024年5月16日 (木)

「ラモス瑠偉と雨の修学旅行生」Jリーグの日、味スタで観た景色

 93年5月15日、国立競技場での開幕試合(対横浜M)に出場したラモス瑠偉氏(67)は収録のため、味の素スタジアムで東京V対G大阪のオリジナル10同士の一戦を観ていた。帰り際、「Jリーグの日」と、試合の感想を聞くと「31年前だなんて懐かしいね。毎年この日はそういう気持ちになるよ」と笑顔を見せた。93年には、ラモス、カズ、武田、北澤、DFに柱谷といった日本代表の主力が揃うスター軍団でやはり「負けなし記録」を作っている。
 Jリーグが始まった当初は「世界的には後発のプロサッカーリーグとしての新たな試みを」(川淵三郎初代チェアマン)と、大胆な発想で世界のサッカー界に追い付こうと独自ルールを採用。90分でも同点の場合は延長Vゴール方式(延長の間に得点が入った場合はそこで試合終了)で、それでも勝敗がつかなければPK戦を行った。同点のない時代だ。
 16年ぶりにJ1復帰を果たして無敗記録を伸ばすチームについて聞くと、ラモスは車のドアを閉めずに開けたまま「でも勝って欲しいよね・・」と、何度もうなずいてスタジアムを後にした。今でも多くのファンに囲まれ、写真やサインを求められていた。
 最初はポツポツと落ちる程度だった雨が後半激しくなった。スタジアム前列のサポーターは慣れた様子ですぐに雨合羽を出し、タオルを持参した人は頭に乗せ、傘はささずに試合を見守っていた。ゴール裏のサポーターにとっては雨など観戦の一部のはずだ。ただ、修学旅行生たちは気の毒だった。雨具の準備をしていないので制服も雨にすっかり濡れてしまって先生は生徒の体調を心配して、座席をどこか変えられないか周囲を見回していた。
 さすがは「オリジナル10」のホスピタリティで、ヴェルディの担当者が座席の変更に対応したが、それでも何人かが「ここで(濡れながら)観ていたい」と主張して残っていたという。この日が初めてのサッカー観戦だったのかは分からない。リアルに観られた選手の激しいプレーや迫力のせいか、サポーター同士の応援が生み出す熱気が雨をものともしなかったのか、照明と芝が演出する劇場的空間に高揚感を味わったのか、Jリーグの一体「何に」魅かれて屋根付きのエリアに移動せず、わざわざ濡れながら楽しそうに試合を観ていたのだろう。
 あんな冷たい思いをしたのに1ゴールも見られなかった高校生たちが、一喜一憂していた後ろ姿を記者席から見ながら「Jリーグの日」を考えた。
 修学旅行生の招待はこの日3校。高校生きょうスタジアムで雨に打たれていた初観戦の人たちが、スコアレスドローと冷たい雨に懲りずに、またJリーグに来てくれるかな。

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増島みどり プロフィール

1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年、フリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬五輪など現地で取材する。
98年フランスW杯代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」(文芸春秋)でミズノスポーツライター賞受賞、「GK論」(講談社)、「彼女たちの42・195キロ」(文芸春秋)、「100年目のオリンピアンたち」(角川書店)、「中田英寿 IN HIS TIME」(光文社)、「名波浩 夢の中まで左足」(ベースボールマガジン社)等著作も多数

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