スポーツライター増島みどりのザ・スタジアム

2024年1月31日 (水)

異次元の伸び率を見せる張本美和はパリ五輪代表に選ばれるか、スポーツ界の「15歳の大ベテラン」?!の躍進を象徴する存在感

 23年末、卓球の若きホープ張本美和(木下アカデミー)と、同アカデミーでフィギュアスケートの島田麻央が初対面し15歳の夢を語り合った(川崎市内)。
 島田は昨年、ジュニア世界選手権で優勝し、難易度の高いトリプルアクセル(3回転半)を成功させるなどシニアに加わった全日本でも2年連続3位と安定感を見せる。一方張本も昨年、パリ五輪選考会となった「全農カップ大阪大会」で、五輪選考レースでも上位につける伊藤美誠(スターツ)を破り、その勢いのまま、現在選考レーストップを走る早田ひな(日本生命)を9度目の対戦で初めて倒して優勝した。
 乗りに乗る15歳同士の初対談は、しかし浮ついた雰囲気などみじんもなく、自分の立ち位置や将来への思いを驚くほど冷静に分析する「地に足の付いた」時間だった。2人の落ち着きに、自分が15歳の頃を思い浮かべて思わず下を向いてしまう。
 1週間に2回ほどウエイトトレーニングを取り入れ、ベンチプレスやスクワットで体を鍛えているという張本は、15歳とは思えぬ体幹の大きさ、安定感が印象に残る。対談中に、司会者に振られて話す順番が、いつも自分が先になっていたため「どうぞ先に話してください」と、さり気ないジェスチャーで島田に譲る気配りにも広い視野がうかがえる。
 卓球専門の記者たちにも「張本の伸び方はちょっと異次元かもしれない。来年の全日本で上位に入ればパリの代表にも選ばれるかもしれない」といった現状を教えられた。

 アスリートたちにとって「15歳」はとても重要な分岐点でもある。年齢とは裏腹にすでにベテランのごとく試合を読み切る選手もいれば、ベテランにある種の恐ろしさを感じさせる熟練の技を繰り出す選手もいる。年齢はまだ15歳なのに、競技ではすでに大ベテランの域に踏み込んでしまった。「15歳の大ベテラン」とでも呼ぶべき存在感がある。
 通算7個と日本の女子五輪選手で最多のメダルを持つスピードスケートの高木美帆が初めて五輪にデビューした(10年バンクーバー)のも15歳だった。1000㍍では最下位。それでも「実力不足を痛感した。ゼロからやり直す」と、き然と前を向いた。26年イタリア大会に向けて偉大なアスリートの挑戦は続く。
 初出場の15歳でソチ五輪の表彰台に立ったスノーボードの平野歩夢は当時すでにプロとして活動しており、銀メダルの喜びを聞かれ「日頃支援してくださる企業の皆さん、環境を整備してくれる方々に感謝したい」と、自分の喜びを表現するより先に周囲に気を配る様子に驚かされた。
 「元祖15歳」とも呼べるのは、女子柔道48㌔級のYAWARAちゃん、田村(当時)亮子だろうか。
 デビューした国際大会でいきなり優勝し、初めての取材を受けた際、取材陣に囲まれ身長140㌢台の田村が見えなくなってしまった。しかし思い切り背伸びをして「オリンピックで金メダルを取りたいです!」と大きな声で言った。背伸びをして思いを口にした様子には、中学生とは思えない迫力が備わっていた。3度目の正直となったシドニー五輪で金メダルを手にすると、結婚し、母親となっても表彰台に立ち続けた原点はあのシーンだったのかもしれない。
 

 昨年12月、張本は自らの成長についてこう説明した。
 「試合は我慢しなくてはいけないんです。我慢して我慢して、やっと自分の流れにできるところまで辛抱できるまで成長した」
 勝負師の鋭い目と力のこもった言葉に、もしかするとパリ五輪代表のダブルスメンバーに滑り込むのでは?と期待を抱いた。若いアスリートたちが伸び伸びと、同時に堂々と世界に挑む。辰(たつ)年のスポーツ界も龍と同じく勢い乗る予感がする。
 張本は1月の全日本で決勝に進出。ランキングトップの早田ひなに敗れたが、15歳の準優勝と、ベテランの伊藤美誠のどちらを選考するか、2月4日の発表に大きな注目が集まっている。(釧路新聞1月ほ~っとスポーツに加筆)

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増島みどり プロフィール

1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年、フリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬五輪など現地で取材する。
98年フランスW杯代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」(文芸春秋)でミズノスポーツライター賞受賞、「GK論」(講談社)、「彼女たちの42・195キロ」(文芸春秋)、「100年目のオリンピアンたち」(角川書店)、「中田英寿 IN HIS TIME」(光文社)、「名波浩 夢の中まで左足」(ベースボールマガジン社)等著作も多数

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