「闘病中の友人に贈るハットトリックのボールを胸に・・・」代表初のハットトリック記念ボールを抱いて取材に応じた上田綺世
取材が行われる「ミックスゾーン」に歩いてきた上田綺世はこの試合の公式球を大事そうに抱えていた。
「ホッとしているというのが正直なところです」と少し笑みを浮かべる。勝利を狙うのでも、1点を奪いに来るのでもなく、6人で最終ラインを固めて攻撃に人を割かない徹底した守備陣形と、ボ―ルを圧倒的に支配する立ち上がりに攻めあぐねていた10分過ぎ、上田は、中央の鎌田から南野が浮き球で繋いだボールに身体をひねるように難しい動きをとりながらヘディング。これがゴール左に決まって先制に成功した。 「勝ちに来ているわけではない。攻めるわけでもない(試合前に引いて来るとは思っていたが)、そこまでしてくるとは思っていなかった」と振り返る。2次予選初の先発となり、「やってみなければわからない」とピッチに立って感じ、実践したプレーでの先制点は大きなものだった。
絶好の時間帯で奪った先制点でチームはペースを掴む。鎌田が2点目を奪い、前半のアディショナルタイム(4分)には、上田が堂安との連携からゴールエリアの右から右足でシュート。これがゴール左に決まって前半を3-0で折り返した。
後半5分にも、再び南野からのパスに上田はGKのポジションを確認して浮かせたボールをゴールに合わせこれが決まって4-0、自身代表初の「ハットトリック」を果たした。
初めて経験する2次予選にも、「イレギュラーが(想定できないこと)があると思っている」と落ち着いて話す。ミャンマー戦も、前回対戦は10-0。しかし、この日も前半もし得点できていなかったら「ややこしいゲームになったかもしれないし(5-0の得点よりも)難しいゲームだった」と試合の流れは紙一重で、だからゴールそれぞれに重要な意味があると強調する。森保監督が強調する「甘くない2次予選」を頭に叩き込んでいるようだ。
19年にコパアメリカで(ブラジル)日本代表にデビューし、4年間、立場も所属先もプレーも多くを積み重ねて再びW杯の舞台を狙う戦いが始まった。ミャンマー戦で流れを奪い取って、それを逃がさない追加点を奪ったように、これからの2次予選、試合を決めるゴール、予選の行方を決定付けるゴール、歴代のストライカーたちがそうだったように苦しい予選を突破するゴールと、常に重く意味のある得点を重ねて行くキャリアも始まった。
ミックスゾーンには、ハットトリックの記念にメンバーがサインしたボールを抱いて出てきた。「記念なんですが、これは友人に贈ろうと思っているんです」と、家族の友人が今、がんで厳しい闘病生活を送っていると明かした。これもこの日のゴールのとても重く、大切な意味だったのだろう。


