スポーツライター増島みどりのザ・スタジアム

2023年2月17日 (金)

30周年のJリーグが開幕 横浜Fマリノスが川崎を2-1で下して連覇へ発進  93年5月の開幕戦を戦ったGK「感慨よりも有難い」としみじみ

 17日=等々力(観衆22563人、7.6度) Jリーグが開幕し、金曜日のこの日、昨年のリーグ覇者横浜Fマリノスが、アウェーで川崎と対戦し、2-1で勝利した。19年のコロナ禍以降、この日は全席で声を出しての応援が解禁に。23000人近いサポーターが30周年の開幕を喜んだ。
 開始4分、前線からの速いプレスで川崎のミスを誘うと、FWエウベルがこれを奪取、西村拓真がGKのポジションを見極めてシュートをし、23年Jリーグゴール第1号で早々に先制した。横浜Fマリノスは、その後もフィジカルの安定さを活かして38分、左CKからFWアンデルソンロペスが頭で落としたボールをエウベルが右足でゴールに流し込んで前半を2-0で折り返した。
後半も30分過ぎまで完全に主導権を握った展開を見せたが、川崎に1人退場者が出た後、後半のロスタイム1分に失点したが、その後は逃げ切って勝ち点3を手に、2003年、04年以来となる連覇に向けて好スタートを切った。
 川崎は、2013年の開幕、柏戦に1-3で敗れて以来、10年もの間、開幕に「負けなし」と勝負強さを誇ってきたが、黒星スタートとなった。ロスタイムに1点を返した展開は、それでも前向きな材料となった。

                   「感慨よりも、有難い」

 Jリーグ15年の開幕も、25年も今年も、何の違いもなく、30年周年だからといって特別な感慨はないだろう。一方、30年前の5月15日、国立競技場の開幕戦で横浜Mの先発を務めたGKが、同じマリノスでベンチに立つ姿には、特別な感慨が湧く。
 試合後、コロナ禍を経て全面的にオープンされた等々力のミックスゾーンで、GKコーチの松永成立を待つ間、93年の開幕戦での勝利、その年のドーハの悲劇、かつての練習場だった「獅子ヶ谷グランド」で、いつも最後に上がってくるシゲを待っていたこと、ソラリ監督の起用方法とぶつかって鳥栖に移籍し、仙台(ブランメル)、京都と渡り歩いた時代、京都で引退する際「引退会見なんてやらないよ、金屏風が似合う男に見える?」と大笑いしながら電話をくれたこと、マリノスに復帰しても毎年契約更新が終ると、「来年もよろしくお願いします」と、律儀に報告してくれる姿・・・色々思い出していた。年齢も1つ違いだから会えばいつでも「お互い歳なんだからさぁ・・」と、軽口をたたき合う。
 試合前、この日大活躍したGKオビ(パウエル オビンナ)と長い時間、話していたので聞いた。
 「GKは、ミスはするもんだからな・・・」Jリーグ通算159試合、JFL145試合、日本代表40試合を戦ったGKは初めて開幕のピッチに立つ25歳にそうアドバイスしたという。
 「でもミスを怖がってプレーをしてはいけない。ミスして、次を怖がってもいけない」
 この日のオビは、立ち上がりから強い気持ちが守備に現れていた。シゲが2000年に引退し、京都でGKコーチに就任し育ててきた選手は数知れない。そしてまた新しく開幕を経験するGKをピッチに送りだす姿を記者席から眺めていて何だかうれしかった。
 「でもね、30年の感慨より、自分がこの歳までピッチに立ってサッカーの仕事をしていることが有難いとつくづく思う」
 カンレキを超えた私たちは、しみじみとうなずき合った。水沼宏太がその後ろを通り過ぎた。父・貴史がシゲと一緒に国立競技場の開幕戦でピッチに立った試合は2歳で観戦した。30年の時間がもたらす豊かさを噛みしめて、2023年シーズンが始まった。

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増島みどり プロフィール

1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年、フリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬五輪など現地で取材する。
98年フランスW杯代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」(文芸春秋)でミズノスポーツライター賞受賞、「GK論」(講談社)、「彼女たちの42・195キロ」(文芸春秋)、「100年目のオリンピアンたち」(角川書店)、「中田英寿 IN HIS TIME」(光文社)、「名波浩 夢の中まで左足」(ベースボールマガジン社)等著作も多数

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