スポーツライター増島みどりのザ・スタジアム

2023年1月11日 (水)

「日本代表キットマネジャー、麻生英雄さんの’最適解’を、ある会見で考える」法政大学で特別授業

 講師をしている法大スポーツ健康学部「スポーツ取材論」2023年最初の講義は、日本代表のキットマネジャーで、カタールW杯の「日本代表」の中ではただ1人、98年W杯フランス大会から7大会連続でスタッフを務めて来た麻生英雄さんにゲスト講師をお願いした。JFAの協力で実現した豪華な講義で、麻生さんが47歳と知り、そりゃ自分が??歳になるよなぁと吹き出した。もう四半世紀以上もの時間、ルーキーから大ベテランになるまで麻生さんの仕事を見てきたことになる。
 しかしそれでも、パワポでの講義を聞きながら、マニュアルも正解も全くなかったこの仕事を、自分でもがき、苦しんで確立しきた揺るぎない信念を改めて感じた。

 日本代表は、5トンにもなる荷物を必要とし、毎日、毎日、引越しをするようなマネージメントをする。カタール大会の際には250個もの荷物を日本から運び出した。こうした仕事にマニュアルはあるはずもなく、膨大な荷物と、もちろんそれ以上に、次から次へと発生する膨大な難問と格闘する。麻生さんは学生に、「正解ではなく、自分で最適解を考える対応力と、周囲とそれを実現するコミュニケーション力が大事だと思う」と、教えてくれた。
 この日、麻生さんと新宿駅で待ち合わせをした。私は目印になりやすい百貨店の入り口を指定し、再開発が進み大混雑するロータリーのどこに停めたら百貨店に行けるか、1周した後、速度を落として車中から見ていると、一方通行の広いロータリーの中でただ一か所、ガードレールが切れて停車しやすく、すぐに乗り込んでもらえる場所で待っていてくれた。百貨店からはかなり離れている。私は、学生より先に、相手が車を停めやすい場所はどこかを探し、予測してそこに立つ「最適解」の姿を見せてもらった。麻生さんの最適解は、相手への思いやりによる。

 夜には東京ヴェルディの23年新体制発表会を(東京渋谷)取材した。今年はJリーグ創設の30年、栄光の初代優勝クラブは09年からすでに13年J2にいる。昨年は9位(会見では、プレーオフ出場に勝ち点はあと3だったと説明した)、10位の千葉とともに「オリジナル10」(93年発足時の参加クラブ)2クラブは昇格できずに30年を迎える。
 強化部長の江尻氏が冒頭、パワーポイントや映像を使って今年の強化体制を説明したが、壇上にはなぜか、人の座っていないカウンターチェア6脚が置きっぱなしだった。後に、新加入選手たちのトークショーのために用意したのだろうが、江尻氏の3年目の最後の年の強化計画も、椅子が邪魔でよく見えない。目指すサッカーを試合で示した映像でも、大事な場面が、背の高い椅子のために認識できない。江尻氏は自分が掲げた3か年計画最終年の意気込みを話している画面に、椅子があっても気にならなかったのだろうか。会見は同時にオンラインでサポーターたちへの配信も行っているため、「椅子はサポーターが見ている手元の配信画面では消えていて、特に障害物は映っていないから」と、椅子は撤去されなかった。では、リアルで会見をやる理由は何だろう? ヴェルディという、自分にとって栄光のクラブが、J1に上がって来ない理由を象徴、するはずはないけれど・・・。

 サポーターから寄せられた「ヴェルディと言って思い浮かべるのは?」という質問に、「伝統」と答えた選手はいた。別の選手は「ひと昔前はとても強かったというか・・・」と答え、これに後方の関係者から笑いが起きた。答えが意外だったから笑ったのかもしれないし、受けを狙ったように聞こえて、場を盛り上げるため笑ったのかもしれない。答えた選手は「強いヴェルディ」は一度も見たことがないのだから仕方ない。しかし、(笑い)の場面ではないはずだ。今年の昇格を、30年だからこそ、初代王者に何か起きて欲しい、と期待する。でも、あの椅子6脚も気になる。

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増島みどり プロフィール

1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年、フリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬五輪など現地で取材する。
98年フランスW杯代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」(文芸春秋)でミズノスポーツライター賞受賞、「GK論」(講談社)、「彼女たちの42・195キロ」(文芸春秋)、「100年目のオリンピアンたち」(角川書店)、「中田英寿 IN HIS TIME」(光文社)、「名波浩 夢の中まで左足」(ベースボールマガジン社)等著作も多数

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