スポーツライター増島みどりのザ・スタジアム

2012年1月 3日 (火)

日本代表ザッケローニ監督新年インタビュー 

 2012年6月、いよいよブラジルW杯アジア最終予選がスタートする。昨年はすでにカタールでアジア杯を戦っていた「ザックジャパン」は今年、1月を充分な休養にあて2月からの始動に備える。
 無敗記録は途絶えたが、監督は2012年、「日本のサッカーに、新たに自分のアイディアを加味する」と、代表のサッカーのグレードアップを目標に掲げ、「最終予選はスタートダッシュを切る」と力強く宣言した。

ー最終予選は、スタートダッシュをかける―

―2012年は最終予選の年になります。どんな一年にしていきたいとお考えでしょう。

ザッケローニ監督 11月、クアラルンプールでAFC(アジアサッカー連盟)の会議に参加し、各国が日本をターゲットにし、対日本、打倒日本にとても強い意識を持っていることを肌で感じ取ることができました。相当に研究された中での最終予選であることは明確なので、より多くのバリエーションを増やしていかなければならないなと思っている。

―最終予選の日程は厳しいです。

ザック監督 確かに6月のスタートから10日間で3連戦、しかも3試合目がアウェーで対戦相手だけではなく日程的にも厳しい。この時期、シーズンが終わってオフに入っている海外組と、シーズン中の国内の選手と、コンディションをうまくプログラミングをしていくかが課題になるでしょう。特に海外組に関しては、彼らはシーズンを終えて疲れており、チャンピオンズリーグに出場する選手もいるし、休みはしっかり与えたい。その上でフィジカルコンディションをどう調整していくかになる。

最終予選にむけてもう1つの問題は、2月の(29日、3次予選最終戦)ウズベキスタン戦後、6月の最終予選まで時間が空くので、そこをどう埋めていくか。そこでの時間の使い方が、最終予選のスタートダッシュが切れるかどうかにかかってくるだろうと思います。

―最終予選の組み合わせはまだ決まっていませんが、中東が非常に多く、監督が特に警戒している国、最終予選のビジョンはいかがでしょうか。

ザック監督 オーストラリアとは別のグループに入るので、恐らく第2ポットに来るのが韓国、イランのどちらか。また、一口に中東といっても違ったタイプで様々な文化もあり、環境も非常に複雑なため、簡単にはいかないだろうなという思いはある。あと数ヶ月間最終予選への準備期間があるので、その中で個人としても、チームとしても成長しながら、最終的にはレギュラーとして試合に出る選手の数を底上げしていきたい。

―希望されているアウェーでの強化試合(10月に予定)は、具体的にヨーロッパであるとか、それとも本大会を見据えて南米とか、どこを希望しますか。

ザック監督 近年は、南米の代表チームが欧州で試合をすることも多く、南米か欧州に行けるチャンスがあればいいが、場所にこだわるよりも、非常に強いチームとやりたい。それが望みです。

―若手の発掘、ベテランの大きな存在―

―レギュラー格の選手を増やし底上げをするとのことですが、選手の選抜については?

ザック監督 昨シーズン後半に見られた傾向だが、非常に若い素材が代表に入って来てくれた。当然、継続して成長している若手にはどんどんA代表でのチャンスを与えようと考えている。日本サッカー界には非常に将来性のある、クオリティを持った選手がおり、さらに磨きをかけて、そこに経験を加えて成熟度を増して欲しいなと思う。

唯一残念なのは、才能のある若手が欧州のクラブに行きながらも、結果的にトップチームでは出ていないこと。しかし彼らにも非常に期待している。

―代表に選ぶ23名以外にもいい選手がいるということでしょうか。

ザック監督 たくさんいるんですよ!。みなさんには名前を教えてあげられないけれど、本当にたくさん。若い選手だけではなく、中堅の選手もいる。彼らにはフィジカルコンディションをいい状態に保ってもらいたいと思っている。今後は特にフィジカルコンディションがいい状態で望める選手を選びたい。

またベテランといっては何だが、そういうキャリアを持った、いい選手がいることも分かっている。彼らについては、2014年のブラジルをプランする中ではなかなか入ってこられないというだけだ。最近は招集されていなくても、W杯南アフリカ大会で素晴らしい戦いをした選手たちもいてくれる。

代表選手の選出について、多くの監督が不満を漏らすものだが、日本のクオリティが高いがために、私は選択肢がとても多い、幸せな代表監督だといえるでしょう。

―日本のサッカーに、私のサッカー観を加味した次のスタイルへー

―アジア杯優勝で得たものは何でしょうか。

ザック監督 2011年を振り返ると、結果を重視した試合に関しては、ほぼ全てにおいて望んだ結果を手中に収めており、唯一思惑から外れたのはアウェーでの(3次予選)ウズベキスタン戦(ドロー)になる。しかし、本田(圭佑)、長友(佑都)といった、代表の欠くことのできない存在の選手たちをケガで欠いた中でさえ、2試合を残して3次予選を突破したことは、非常にポジティブな結果だったといえる。

アジアカップに話を戻せば、大会データを振り返ると、日本のゴール数が一番多く、またプレーの精度を表すデータが出ている。ゴールへ向かう選択肢の多さもやはり日本が多かった。そこから見ても、代表は非常にプレーの幅が広がっていて、ゴールへ向かう選択肢が増えている。

―反面、日本代表のサッカーはチャンスをよく作るクリエイティビティ(創造性)はあっても、どうもそれがゴール数に比例しない面があります。監督のイタリアという国は真逆で、チャンスは少ないのに決定力で相手をやっつけていく。それで世界中から嫌がられる国です。日本のサッカーに、どうも歯がゆい気持ちがあるのでしょうか。

ザック監督 どちらとも言えるでしょう。日本のサッカーは技術が高くパスが多いサッカーだ。イタリアのサッカー、またはヨーロッパのサッカーでも多くのゴールがカウンター、もしくはショートカウンターから生まれている。ボールを奪い、相手の守備陣形が出来ていない隙に、素早く攻撃を仕掛けていくやり方が主だと思う。

そういった意味では、日本はやはりブラジルサッカーのDNAが少し入っているとも思う。横パスを多用し、サッカーのリズムはやや遅くなるが、日本では守備の選手も足元が上手く、それぞれに合ったスタイルといえる。

ただ日本代表監督として決めているのは、日本のサッカー文化の中で、自分のアイディアやサッカー観を加味したいということ。国際試合では、相手がスペースを消してくるし、チャンスを作らせない戦い方をする。最終予選で対戦する中東のチームも、スペースを消し、自分たちが仕掛けるようなサッカーはしてこないことを考えると、チャンスを数多く作る今のスタイルと、そのチャンスをものにすることは、共存させていかなければいけないテーマだと思う。

チャンスを多く作る。それは非常に大切だが、世界に出たときには、シュートを15本20本打てるような試合はないので、本当に最小限のチャンスを決め切らなくてはならないでしょう。どんな種類の試合にも私は勝ちたいし、試合が終わった後にみなさんの前に出てきて(会見で)、向こうがスペースを消してきたのでプレーをさせてもらえなかったと言い訳はしたくない。

その点では、パスだけでチャンスを作るのではなく、ミドルシュートをより多く狙うことも大事になる。

―正月の話題を少し。監督のお正月休みは?

ザック監督 もし友人たちと祝うようならば、メニューは私が考えますね。

―監督は‘わさび’がお好きだとか。

ザック監督 ええ、多分私のほうが、日本人よりもわさびが好きなんではないかと気が付きました。(チューブよりも)すりおろすほうが好き。日本食全てが食べられるわけではありませんが・・・特に日本の鶏肉、魚介類は非常にクオリティが高いですし、味噌汁、ラーメン、そば、ほとんど大丈夫で、日本での外食は楽しんでいる。

―どんな2012年に?

ザック監督 11年の勢いをそのまま、さらにいい年にして14年への足がかりを作る1年にしたいと思う。新聞やメディアの報道を全て私が把握できるわけではないが、(批判的なものではなく)サポーターに常に応援してもらっている代表であることは、私たちにとって何よりもポジティブなことだ。

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増島みどり プロフィール

1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年、フリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬五輪など現地で取材する。
98年フランスW杯代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」(文芸春秋)でミズノスポーツライター賞受賞、「GK論」(講談社)、「彼女たちの42・195キロ」(文芸春秋)、「100年目のオリンピアンたち」(角川書店)、「中田英寿 IN HIS TIME」(光文社)、「名波浩 夢の中まで左足」(ベースボールマガジン社)等著作も多数

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