スポーツライター増島みどりのザ・スタジアム

2011年7月18日 (月)

「大会MVP、得点王 澤の広く、深い視野」目標は早くもロンドンへ 名付け親・川淵キャプテン ザック監督お祝いコメント

延長に入る直前、PK戦に入る直前、円陣の中にはこれ以上ないほと爽やかな笑顔を広がっていた。中心にいたのは佐々木監督。選手をいつでも受け入れ、「楽しくなければなでしこじゃない」をモットーにして、年齢幅のある代表をけん引した。
 アメリカに敗れ、引き分けること24回。25回目のチャレンジで勝ったのは、なでしこ、なでしこ以前から黙々とボールを追い続けた先人たち、彼女たちを現場で支えたサッカー関係者、環境で支援した方々、家族、全員の祈りと、笑って困難を乗り越えてきた全員の力だ。
 5得点で「得点王」、そして「MVP」を手に帰国する澤も、「これで終らせたくない」と、9月に始まる五輪予選、来年のロンドン五輪への夢を早くも口にしている。
 選手は19日に帰国、早くも週の半ばには各クラブで練習が始まり、週末にはリーグが再開する。

 
 

 「メダルを取る、「正直、引退しなくちゃいけないのかな、って考えたこともありました」と、ランチを摂りながら澤穂希に聞いたのは、彼女が30歳を前にした頃だった。15歳から活躍してきたが、常に目標を追い続けるのは簡単ではない。若い選手が台頭してくる代表でどういう存在になればいいのか、プレースタイルや肉体の変化とどう向き合い、30からさらに伸びていけるのか、女子サッカー選手として前人未踏の領域を前にして、それらに悩んだという。しかし目標としてきた国際大会でのメダルは、まだ手にしていない。

 目標を達成するために選んだのは、自分の肉体と精神をもう一度見つめ直すという地道な作業だった。先ずは食事。元々、20代で米国のプロ生活を経験しており、自炊は得意だ。魚や野菜を主体に、一日二十品目を摂る食事をていねいに作り、体のために玄米、雑穀を主食にする。筋トレよりも、バランスを重視し持久力のあるしなやかな体作りに挑んだ。尊敬していた中田英寿氏のように、目標をはっきりと口にし、そこに向かう。かつてなら主将に指名されれば控え目に断ろうとしたが、「常に何かを背負う」「私がやらなければどうするの?」という重圧を、強いモチベーションに変える。ゴールに絡む位置からボランチにコンバートされたことも「以前よりも広い視野でサッカーを見られるようになる」と、前向きに取り組んだ。

 あのとき、人知れず「30歳の壁」と格闘し、上り終えたとき、「ようやく、心と体が一緒に走ってくれている感じが掴めた」と、輝く笑顔を見せた。今大会は、あの笑顔の延長戦にあったはずだ。

 男の子に混じってサッカーを続け、負けまい、と体を張ってチャレンジし続けた。20歳で渡った米国では言葉も通じない中、欧米の女性たちと自己主張し合いながら、「骨がきしむ音がした」と激しい接触プレーの中歯を食いしばった。そうした環境で鍛えられてきたMFには、自身を築きあげ、周囲と同調して推進力を得ることのできる独特の、広く、深く、優しい視野がある。
 澤の「視野」が、なでしこを新境地へ、そしてさらなる高みへ導くのだろう。

川淵キャプテン 
奇跡は起こるんだね。大きな夢を持って、一生懸命練習して最後まで諦めずに、フェアプレイで、ひたむきに頑張ったからこそ勝利の女神が微笑んでくれた。
被災者を初め日本中のみな様の応援のお陰。
日本に勇気と希望と感動を与えてくれた佐々木監督スタッフ、選手のみんなに心から感謝します。

ザック監督 
この歴史的快挙に最大限の称賛を送りたいと思います。大会を通じて素晴らしい戦いをしていました。決勝でも、日本の方が、最初から確固たる決意を持って、この試合に向けてアプローチしていたのが見受けられました。佐々木監督をはじめとするスタッフの皆さん、選手の皆さん、日本サッカー協会の皆さんに対して、この偉大な仕事におめでとうとお伝えしたいと思います。また、選手達が普段所属しているクラブの皆さんにも、世界で戦える選手達を育てていることに対して、敬意を表したいと思います。アジア大会での男女優勝、アジアカップ優勝、そして、今回の女子ワールドカップ優勝は、世界のサッカー界の中で、日本サッカーの全てが前に進み、成長していることを証明していると思います。

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増島みどり プロフィール

1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年、フリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬五輪など現地で取材する。
98年フランスW杯代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」(文芸春秋)でミズノスポーツライター賞受賞、「GK論」(講談社)、「彼女たちの42・195キロ」(文芸春秋)、「100年目のオリンピアンたち」(角川書店)、「中田英寿 IN HIS TIME」(光文社)、「名波浩 夢の中まで左足」(ベースボールマガジン社)等著作も多数

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