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2010年7月14日 (水)
「ピッチという世界地図に描いた、4752本のパス」W杯初優勝を果したスペインサッカーの、真髄(2)

  ―パスをつなぐ粋、リスクを冒す勇気―

-スペインでプロライセンスを取得し、育成、強化の現場に立ち続ける佐伯さんにとって、どんな初優勝ですか。

佐伯 これで現場の指導者皆が報われる、そんな思いがしました。スペインのサッカーは、非常に強固で厚い土台に支えられていますが、A代表だけが、監督によってサッカーを変化させ行方が定まらなかった面もありました。かつては、フィジカルを重んじてバスク地方出身の選手を多く入れたこともありました。ただ今回は、レアル・マドリードのデルボスケス監督のもと、「世界で一番素晴らしく魅力的なサッカーをするバルセロナ」でチームをまとめ上げた。ずっと固まっていた下部組織、厚く重ねられてきたピラミッドの底辺が代表をより強く動かしたのかもしれませんね。スペイン代表のサッカーは、スペイン中のクラブ、子どもたちのチームの縮図なのです。

-総ゴール数は歴代でも最小となる8点、失点も同様にタイ記録ですが最小の2点。ただし、驚くのはパス総数であり、ポゼッションです。

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佐伯 私が今所属するビジャレアルには、所属チームだけでトップからユースまで42あります。しかも、3、4、5歳児の可愛いオチビちゃんたち120人もいますが、みんな、代表と同じサッカーをしますね。小さい子どもたちだって、絶対にGKからつないできますよ。

-もしボカン、と蹴ったりしたら…

佐伯 ボカンと蹴ったら、まずは親御さんから大ブーイング、怒られる。町のサポーターからも、そんなサッカーを見に来たんじゃないぞ、って野次が飛ぶ。そんなサッカーを容認した指導者は、クビを言い渡されるかもしれません。まずクラブのコンセプトがあり、監督がそのコンセプトをどう受け止め、実践しようとするかです。たくさんのゴールを奪うことが攻撃的だ、という発想ではないですね。蹴って、ゴールを量産しても見向きもされないでしょう。

-ゴールよりも、どうゴールを奪うのか、その姿勢がパスに投影される。

佐伯 スペインリーグではパス1本つながるごとに、大きな手拍子と歓声が沸きます。もしパスの出しどころがなければ、もう一度大きくGKに戻してやり直す。洒落ていて粋(イキ)であること、リスクを恐れず勇気を持って前に出ること、こうした哲学を表現し続けたW杯でした。初戦でスイスに負けましたが、あれは、自分たちが信じるサッカーが、一方ではリスクを伴うという現実を改めて認識するものでした。ですから国内では、またダメか、という声はなく、これだけいいサッカーをしているのだから、といった評価でしたね。

-ウルグアイのフォルランも、ビジャレアルとはかかわりがありますね。

佐伯 マンチェスターで試合に出られなかったフォルランを獲得し、スペインが彼には合うと見抜いたのは、ビジャレアルの強化部です。狙い通り、得点王を獲得し、アトレチコ・マドリードといい契約を結んで移籍し、クラブに大変貢献してくれました。テニスはプロ級でスポーツ万能、しかも人物が素晴らしい。クラブも、地元サポーターもきっと優勝とMVP獲得を同時に大喜びをしていると思います。

-今後は?

佐伯 ビジャレアルで女子チームの監督に就任します。現場が好きですし、この初優勝でスペイン中がサッカーを一層深く愛していくでしょう。ビジャレアルは人口5万人の町なのに、クラブが42チームあり、120人のちびっ子も所属し、全員が黄色のユニホームを着ていますよ。そういう日常が、代表を作りあげるのでしょう。

佐伯夕利子(さえき・ゆりこ)
2003年に、女性でも、日本人でも初のスペインサッカー協会ナショナルライセンス(日本のS級ライセンス)取得したプロサッカー指導者。
父親の赴任地イラン・テヘランで生まれ、1992年には父の転勤でスペイン・マドリッドへ。指導者を目指し、2003年スペインサッカー界で初の、男子ナショナルリーグ「プエルタ・ボニータ」で監督に就任し、国内だけではなく、ヨーロッパ中で注目される。アトレティコ・マドリッド、バレンシアCF強化担当として活躍し、2008年9月よりビジャレアルCFと契約、育成部に所属する。
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この特集について
スポーツライター増島みどりによる南アフリカW杯レポート、選手へのインタビュー。

増島みどり プロフィール
1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年、フリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬五輪など現地で取材する。著書も多く、速報サイト「ザ・スタジアム」も主宰している。

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