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2010年7月14日 (水)
「ピッチという世界地図に描いた、4752本のパス」W杯初優勝を果したスペインサッカーの、真髄(1)

予選リーグのスイス戦での敗戦から始まったスペインのW杯は、イニエスタの一撃でオランダを延長の末1-0で下して、7試合計660分で幕を閉じた。W杯史上、8ケ国目となる新たな優勝国のスタイルは、ゴール数や失点の少なさ、システムといった表面的な分析による表現ではなく、その「個性」において他を寄せ付けなかった。

予選から7試合で、スペインがピッチで交わした総パス数は実に4752本。決勝で、同じように攻撃的なサッカーを見せ、またも準優勝に泣いたオランダでも7試合で3738本である。ボールを保持し続けたその時間(ポゼッション)でも、常に6割前後をキープし、美しいパスをつなぎ彼らはゴールを狙い続けた。

「相手にボールさえ渡さなければ、攻められることはない」(決勝マン・オブ・ザ・マッチのイニエスタ)というわけだ。

しかし、スペインが愛するサッカーは同時にもろくもあった。リスクを伴い、リスクと戦うサッカーでもあるから。

一時は世界の頂点に立つことを諦めかけたこともある。しかし、2年前の欧州選手権での優勝は、その方向性が正しいこと、自信を持って貫徹すべき道であることを示したものであった。

「スペインサッカーにかかわる、全ての指導者たちが報われた気がします」

 スペインで、日本人として、無論、女性として初めてナショナルライセンスを獲得した佐伯夕利子氏(37)は、スペイン初優勝が決まった日、オフで一時帰国中の東京でそう言った。

スペイン国内で、女性初の男子ナショナルリーグ監督に就任し、欧州中で大きな注目を集めた大和撫子は、アトレチコ・マドリード、バレンシアと名門クラブで強化、指導のキャリアを積み、07年からは「ビジャレアルCF」の育成部に所属する。このほど、女子チーム監督に就任を要請された。ルイス・エンリケらと同期で、ライセンス取得への難関で学び、現場に立ち続ける彼女に、絶好のタイミングで「スペインサッカーの真髄」について聞いた。

-あの日のイニエスタにも、アルテ(ARTE)があった-

-決勝ゴールを奪ったイニエスタは、佐伯さんが指導者修行をしている頃に華々しくデビューしたんですね。

Saekisan

佐伯 ええ、彼が11歳で「アレビン」というカテゴリーで7人制の大会に出場したときのことです。ラジオ局が主催する大会で、確か20チームが参加していたんですね。バルサ、マドリードなどの強化担当たちの目を、イニエスタは釘付けにしました。忘れられないのは、ピッチに立っていた子どもたちの中でも一際小さくて、皆と同じに着ていた半袖が、彼だけブッカブカの長袖になってしまっていた光景です。可愛いかった。

プレーはいかがでしたか。

佐伯 スペインでは、12歳までの子どもたちに11人制はやらせません。7人でボールタッチの一人分の時間を長くすること、もうひとつが、サッカーで起きるさまざまなシーンや構図を、狭いピッチで頭の中に叩き込むためです。指導者たちはすでに「あの子のプレーにはアルテがある」と話していました。アルテとは、スペイン語で芸術とか技術、技巧など様々な意味で、センスとも少し違う。ほかの選手には見えないものが見えたり、感じることのできない空間でプレーを表現する特別な才能を、そんな風に言い表します。

-サッカーにアルテがある、とは、フィジカルなどとは違う、最高の資質への賛辞なのでしょうか。

佐伯 間違いなくスペインではそうですね。あの時、バルセロナのグラウディオラが(現監督)、11歳のイニエスタについて、僕の後継者はこの子だ、とすでに言っていると聞きました。イニエスタを育てた全ての指導者の「アルテ」が、勝利した瞬間かもしれません。

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この特集について
スポーツライター増島みどりによる南アフリカW杯レポート、選手へのインタビュー。

増島みどり プロフィール
1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年、フリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬五輪など現地で取材する。著書も多く、速報サイト「ザ・スタジアム」も主宰している。

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