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2010年7月20日 (火)
コラム「ベスト4と16強の間を隔てる壁」

1ケ月に渡ったW杯が終り、日本代表選手の多くが、公の場でW杯を振り返っている。「求められていること」について答えているのは当然だが、選手たちが盛んに口にする「このチームの絆は最高だった」「本当にまとまった最高のチーム」「収穫は、団結心」といった言葉を、どこか照れ臭く感じてしまうのはなぜだろう。こうしたコメントは、「私の家族は世界一」と話す無邪気にも似て、内向きで少し感傷的過ぎるように思う。

今回の日本代表の団結心は、下馬評を覆す成果を呼び込む大切な「鍵」ではあったが、しかし、それを過去の日本代表の結束力と比べることはできない。徹底した組織力と、揺るがぬ団結心と、現実を直視し腹を括った潔さがベスト16入りの要因だったとすれば、岡田武史監督が目標として常に口にし続けたベスト4入りができなかった原因は、どこにあるのか、実際にベスト4入りを果した、ウルグアイ、オランダ、ドイツ、スペインと、日本代表を、感情よりも数字でまとめると(FIFA公式ページより引用)、4チームと日本の間には、顕著な違い、或いは「差」が見える。ひとつは、日本が「正確性とスピード、連動性で優位に立てる武器」(岡田武史監督、W杯抽選会後のコメント)とまで誇ったはずのパスにある。

―ベスト4のパス成功率平均は74%―

決勝まで7試合、スペインのパス総数は4752本、パス成功率も(3803本)80%と他を圧倒した。ベスト4入りの時点でも3475本で(成功2797本)、やはり成功率は80%にも達する。日本は4試合で1477本、成功はわずかに890本に終わり、成功率では60%。パラグアイに敗れた後にすでに明らかにされていたが、予選を戦った32ケ国中31番目だった。

さらにスペインとの比較だけではなく、オランダ、ドイツ、ウルグアイと4チームと比較する。ベスト4入り時点(5試合消化)で4か国のパス総数に対する成功の比率は平均で74%。優勝国と日本の間には20%、ベスト4との間にも14%もの開きがある。

オランダ戦に0-1で敗れた後、MF遠藤保仁はミックスゾーンこんな話をした。

「正直言って、守備では点を取られるような気配がまったくない。(強化試合最終戦の)ジンバブエ戦から3試合目、このシステム(3ボランチ)に自信を持って戦えている。でも、攻撃ではまだ何もチャレンジできていないことに不満はある。パスミスも多く、精度も悪いので狙われてしまう」

代表が、パスによって人もボールも動くアグレッシブなアクションサッカーから、守備的布陣へのリアクションへと大きく舵を切らざるを得なくなったのは、W杯前の強化試合、コートジボワール戦(0-2)がきっかけだった。W杯決勝トーナメントへ進出するレベルを相手にパスを回せない、ボールを持てない、まるで子ども扱いをされたかのような試合運びに、監督以上に選手が、守備的戦いに腹を括った。

左サイドで粘り、前線にドリブルで切り込んでいったFW大久保嘉人は、新たな役割に充実感と戸惑いを、「連動性はまったくない攻撃」と表現した。ボールを奪っても、人数が足りない。サイドでサポートはなく、自分が行けるところまで行きそこで終わってしまう。

もちろんパスをいくら繋いだところでゴールを奪えなければ無意味だ。実際に日本は、成功したパス890本中46本をシュートにつなげる堅守速攻のスタイルで米国、ウルグアイと並び「効率」でのトップレベルだった。

しかし遠藤が話したように、正確性、連動性、スピードのストロングポイントであったはずのパスサッカーを捨てて戦った代価は、ベスト4との差を逆に際立たせたといえる。

98年のフランスW杯、岡田監督は中盤の山口素弘、名波浩、中田英寿の3人を「トライアングル」とし、繊細に、組織的にパスをつなぐ中盤を日本サッカーのシンボルであり、拠り所としたが結果は3敗。今回の岡田監督は、この経験を「勝ち点」につなげた。

監督就任会見で、この代表のコンセプトとしてあげた「展開、連続、接近」の、ラグビーの大西鉄之助氏の哲学は、実は「ベスト4」4ヶ国のまさにスタンダードでありながら、日本の16強入りに反映されることはなかった。

スペインが、パスサッカーでW杯8番目の新しい優勝国に躍り出たことは、現代への何か強いメッセージでもあったように思える。ツールは、過去とは比べ物にならないほど進歩したはずが、一方で、人間的なコミニケーションは希薄になりつつある。言葉の海で人々が溺れそうになるそんな時代に、パスとは、人と人が言葉より先に心を察し、相手を重んじ、ゴールを想像しながら濃密に繋ぎ合ってゆく、強く、芸術性も兼ね備えたコミミュニケーション手段である。スペインは古く、しかし現代ではむしろ斬新なコミニケーションの形を、世界に「発信」したのかもしれない。

○ベスト4各国と日本のパス数(ベスト4各国は5試合の合計、日本のみ4試合)
日本:1477、成功890(成功率60%、1試合平均295.4)

ウルグアイ:2018、成功1261(成功率62%、1試合平均403.6)
オランダ:2756、成功2044(成功率74%、1試合平均551.2)
ドイツ:2768、成功2031(成功率73%、1試合平均553.6)
スペイン:3475、成功2797(成功率80%、1試合平均695)

※ベスト4各国合計:11017、成功 8133(成功率74%、1試合平均550.85)


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この特集について
スポーツライター増島みどりによる南アフリカW杯レポート、選手へのインタビュー。

増島みどり プロフィール
1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年、フリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬五輪など現地で取材する。著書も多く、速報サイト「ザ・スタジアム」も主宰している。

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