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2010年7月30日 (金)
コラム「ベスト4」と16強を隔てた壁」(2)-次期監督候補の条件にもつながるもの-

 「理想と現実を分けた10メートルの距離」

 アウェーW杯で初めて決勝トーナメント進出を果した日本が、パラグアイに敗れて目標の「ベスト4」を逸してから1ヶ月が経過し、現地で決勝まで視察した原博実・技術委員長らによる「大会総括」と、「日本代表の戦いと今後の展望」についてのレポートが幹部に提出されている。岡田武史監督の次期監督候補も、このレポート内容によって絞られていると、協会の小倉純二新会長は説明。原委員長が南米入りするなどして交渉しているが、その第一条件に、日本が今後目指すべきサッカーの理想像がある。次期監督に任せる日本代表の理想像は、達成できなかった目標「ベスト4」にも関連するものだ。

 岡田監督就任時には、「アグレッシブにボールを奪い、速く、正確なパスで攻撃を展開する。人もボールも動くサッカー」としたが、南ア前の強化試合、コートジボワール戦後、方針を大きく転換。「私にも、理想のサッカー、やりたいサッカーはある。しかし、ここに、日本代表の監督として勝つためにきた」と、一度、もらしたように現実路線を選択した。

 日本代表の「スターンダードポジション」は当初、ハーフウェーラインから10メートルほど入った地点で、この高い位置からFWがプレスをかけるものだった。しかしW杯期間中、この位置はハーフウェーラインのやや後方、DFは、ほとんどペナルティエリアにかかる位置で陣形を敷いている。理想と掲げた場所から、少しずつ下がり始めて、ようやくたどりついた場所は、理想としていた基準位置から約10メートルも後方。ここが、日本がW杯という最高の国際舞台で立たざるを得なかった「現実」の居場所だとすれば、理想から現実までを模索しながら10メートル下がったことになる。恐らく、もうこれ以上は下がることができない、「崖っぷち」の感覚に近かったのではないかと思う。
 攻撃的な理想論を捨て、守備的な現実路線を取った日本代表の「理想と現実」には、10メートルもの開きがあった、といえる。その意味で、ブラジルW杯を目指す日本にとって、再度「前に出る」ことが重要なテーマになるはずだ。

 「持つか、持たせるか」

 こうした守備的布陣の中、人を(相手)追わず、ボールを支配させてチャンスをうかがう、いわば「堅守速攻型」を南ア仕様の日本スタイルとして急造した。カメルーン戦42%、オランダ戦はついに39%、デンマーク戦は43%、パラグアイ戦42%のボールポゼッションで、一試合も、相手を上回ることはなかった。「ボールも人も動く」としたものの、結果的には「人(相手)を追う」ことはしなかった。アクションではなく、「リアクションサッカー」でもあった。
 MF遠藤保仁が、オランダ戦後に「日本のレベルで言うと、高校サッカーのチームが日本代表と試合をした時のポゼッションの差になる。こういうスタイルで戦うのも、なかなか面白いし好きだった」と、前半はほぼ3割だったポゼッションについて、話していた。相手に持たせて忍耐し、そこからチャンスを得る。もちろん、ポゼッションが勝敗を分ける条件になるわけではなく、事実、カメルーンもデンマークも下回りながら勝利したという、ひとつの「スタイル」としての手ごたえを、遠藤ら、特に中盤の選手は感じていたのだ。しかし、「目標」と口にした「ベスト4」と比較すると、パス成功率が圧倒的に劣ったのと同様、ポゼッションでも違いが浮き彫りになる。
 日本の4試合平均ポゼッションは42%、ウルグアイもベスト4進出までの平均が47%と50%を上回ったが、これはウルグアイサッカーが長く貫いてきた「カウンターサッカー」のスタイルで得点は7点と、ベスト4進出時点でスペインを上回っている。スペインのポゼッション60%、ドイツで51%、オランダも54%、と、「ベスト4」は「持つサッカー」で勝ちあがった。

 岡田監督は、日本は理想の攻撃より現実の守備を、個々の自由よりも、徹底した規律と組織力を、アクションよりも、リアクションで忍耐するという日本のサッカーを、日本人の特性を引き出した上で世界に示した。W杯では過去最高(アウェー)の結果をもって、これらを「日本のスタイル」として継続性を求めるのか、それとも、新監督には、今回の守備的リアクションサッカーから、「新たな日本スタイル」の模索によって日本人の特性を引き出すことをを求めるのか。こうしたサッカー観での合意を前提に契約することが、技術委員会、大仁副会長に課せられたミッションとなった。

 W杯は、戦術やシステムだけではなく、その国の文化、歴史、風土、特性、時に現代社会さえも一瞬で表現してしまう。それが世界中が四年に一度、1勝をめぐり世界中が熱狂する理由だとすれば、16強入りを果した今大会だからこそ、称賛を繰り返すより、達成できなかった4強に足りなかったものこそ見つめるときなのかもしれない。


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この特集について
スポーツライター増島みどりによる南アフリカW杯レポート、選手へのインタビュー。

増島みどり プロフィール
1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年、フリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬五輪など現地で取材する。著書も多く、速報サイト「ザ・スタジアム」も主宰している。

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