スポーツライター増島みどりのザ・スタジアム

2024年8月21日 (水)

池田太監督退任 なでしこジャパンはどんなサッカーを見せて、どう魅せるか「看板」を掲げる新監督人選に

 池田監督には8月19日、契約満了での退任が伝えられたという。
 佐々木則夫・女子委員長は取材に対し「(池田監督の)監督としての資質では選手、スタッフとも良い雰囲気のなかでコミュニケーションを取ってくれた。ただ、サッカー的な要素のなかで、なでしこジャパンとしてはベスト8止まりではなくベスト4に入って(優勝やメダル争いで)話題になれるように引っ張って欲しかった」と、女子のビッグイベント2年連続、2大会連続でのベスト8という結果に言及した(W杯はトーナメント1回戦突破してのベスト8)。
 佐々木委員長は、グループリーグ(予選ラウンド)での戦いと、トーナメントに進出してからの戦いの違いに対する準備やトレーニング、選手に対しても一発勝負となるトーナメントの緊迫感をミーティングでどこまで植え付けられたかが、「シフトチェンジ(監督交代)」を決めたポイントになったと説明する。

 例えば昨年のW杯では、すでにグループリーグ突破(2戦目で)を決めて迎えた3戦目のスペイン戦で相手のボール保持を警戒し引いた守備からカウンターで4-0と大勝。3連勝でトーナメントに入ったが、ノルウェーを破って8強に進んだ後、4強をかけたスウェーデン戦で敗退し、スペインは初優勝を飾った。
 パリ五輪でも、グループリーグ2試合のブラジル戦でアディショナルタイムに劇的な2ゴールで逆転勝ちし、続くナイジェリア戦にも勝利して2勝で勢いに乗ってノックアウトステージへ。しかし初戦のアメリカ戦に延長の末(延長前半に1失点)敗退。決勝ではブラジルとアメリカが金・銀メダルを争っている。
 グループリーグで勝利しても、一発勝負となるノックアウトステージに入ると相手を評価するあまり、相手に合わせ守備的に試合を展開し敗退する。守備から前線まで、豊富なタレントがビッグクラブに移籍しながら「なでしこ」となると十分に持ち味を発揮できないままベスト4の壁に阻まれた2年だった。
 昨年のW杯16強に終わったアメリカは大きな危機感から、「チェルシー・ウィメンズ」でリーグ5連覇を果たすなど手腕を発揮したエマ・ヘイズを五輪直前の5月に新監督に任命。フィジカルやパワー、個人のテクニックで世界をリードした米国女子が昨年W杯で惨敗した原因を「創造的な才能が圧倒的に不足している」(テレグラフの自身のコラムで)と厳しい現実を突き付けた。
 昨年新女王となったスペインは男子同様のポゼッションサッカーを貫き、パリ五輪グループリーグ初戦では、W杯で予期せぬカウンターに屈した日本に対し驚異的なポゼッションでリベンジして見せた(日本1-2)。
 先日、海外クラブに所属する選手が「なでしこだからといって、何がなんでもボールを持って回さなければいけないということではないし、相手に合わせた対応力はなでしこの強み」と話していた。確かに対応力は世界で闘う重要な要素だ。けれどもこの3年間、「何がなんでもボールを持ってゴールを目指す」というアグレッシブなでしこは一度も見なかった。攻撃力を持った選手たちが強固なブロックを作るためにボールを追いかけるのでは、宝の持ち腐れになってしまうのではないか。
 2011年の優勝時と異なり、海外で活躍できるタレントがこれだけ揃うなか「なでしこジャパン」が目指すサッカーは今でも海外勢の脅威となるし、女子サッカー界の道標にもなるはずだ。世界でわずか5カ国だけのW杯優勝国として(ほかにアメリカ、ノルウェー、ドイツ、スペイン)どういう看板を掲げるのかを見てみたい。

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増島みどり プロフィール

1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年、フリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬五輪など現地で取材する。
98年フランスW杯代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」(文芸春秋)でミズノスポーツライター賞受賞、「GK論」(講談社)、「彼女たちの42・195キロ」(文芸春秋)、「100年目のオリンピアンたち」(角川書店)、「中田英寿 IN HIS TIME」(光文社)、「名波浩 夢の中まで左足」(ベースボールマガジン社)等著作も多数

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