スポーツライター増島みどりのザ・スタジアム

2024年7月29日 (月)

「どうしてこんなに日本代表のユニホームを着たファンが多いのだろう?」なでしこ・谷川の逆転ゴールを後押しした’パワースタジアム’ 

 29日=パリ フランスに入ってパリとは遠く離れたボルドーやナントでサッカー取材をしていたため、パリの華やかさや賑わい、緊張感を全く感じないまま「地方巡業」を続けていた。28日、「パルクデプランス」で行われたなでしこジャパンとブラジル戦で「五輪すごろく」でやっと「パリに入る」となり、完全なおのぼりさん気分でスタジアムに向かった。
 オリンピックはW杯や世界選手権と違う。例えばこのパルクデプランスの試合も日本とブラジルを応援しようと集まる人たちより、国は全く関係なく「中立」のファンが圧倒的に多く、入手できたチケットで夏休みの家族連れ、或いは友人たちと予定を組んで「オリンピック」にやってくる。ちなみにサッカーのチケットは、グループリーグ中まだ余剰がある。ほとんどセール状態で4人以上のグループなら1人15ユーロ、と、組織委員会が数十万円で「パックチケット」を目玉にしたのとは正反対の、気軽に購入できるチケットが出ている。
 このためのどの会場でも当日売りの窓口には多くの人々が情報を知って「フランスじゃないけどまぁいいか、これだってオリンピックだもんね!」といった屈託ない明るさで並んでいる。これがオリンピックの魅力だ。中に入ったらフランスではなく、えッ日本とマリ?!でも、スタジアム内には「フリージュ」(今大会のマスコット)もちゃんといて写真も撮影できるから囲まれているし、試合前にはみんなで、MLBでもさカーでもラグビーでもなぜかとても愛されている「スイートキャロライン」(二―ル・ダイアモンド)を大合唱したり、ハッピーな雰囲気が漂っている。


 なでしこジャパンの試合に向かう途中、改めて、日本代表、なでしこジャパンのユニホームを着て応援している外国人の多さに驚かされた。今までの五輪取材ではあまりない光景だ。昨年の女子W杯のパステル調のものから、最新の「Y3」も含め、思わず「どうしてそのユニホームを着ているんですか?」と、それぞれの「縁(ゆかり)」を知りたくなる。
 22年カタールW杯でドイツ、スペインと優勝経験国に連勝した日本代表のインパクトは大きいだろう。11年に絶対的女王アメリカを延長、PKの末破った試合以降、なでしこジャパンのファンの余韻はサッカーファンだけではなく、東日本大震災から何とか立ち上がろうとした日本を映し出すひとつとして、今もファンの記憶に強く残っているかもしれない。
 
 ブラジル戦の前半、田中がPKを外した時、周囲では田中を激励する大きな拍手がわいた。後半のアディショナルタイム、熊谷紗希がPKをセットすると、前にいたフランス人の家族4人連れは一斉に立ち上がって拍手で同点を願い、谷川萌々子の逆転ゴールが決まると振り向いてハイタッチをしてくれた。特に喜びを表現しない自分が心配でPKを見られないとと思ったのか、「もう(勝利は)大丈夫だよ、さあ喜んで!」なんて笑ってくれる人たちもいた。
 「日本人じゃないけれど日本のサッカーを応援している」という、選手にとって見知らぬの人たちのパワーは逆転劇を後押ししてくれた。3年前の東京五輪では残念ながら規制ばかりで見られなかったこうした意図しない応援は試合の行方は変えたかもしれない。この試合で、日本のサッカーファンはまたまた増え、「A社」!も喜ぶユニホームの売れ行きにつながるかな。
 自分が全く知らない存在に、オリンピックに臨む選手たちはとても大きな応援を実は受けている。東京五輪では聞こえなかった声援が試合をまぶしいほどに輝かせている。
 ボルドーでもナントでもそういう美しい光景を何度も何度も目撃できた。スタジアムから出て、もみくちゃになりながら夕暮れのパリを歩きながら、4年に一度、今回は3年で巡ってきた奇跡のようなこの時間を止めて欲しくない、とずっと祈っていた。

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増島みどり プロフィール

1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年、フリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬五輪など現地で取材する。
98年フランスW杯代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」(文芸春秋)でミズノスポーツライター賞受賞、「GK論」(講談社)、「彼女たちの42・195キロ」(文芸春秋)、「100年目のオリンピアンたち」(角川書店)、「中田英寿 IN HIS TIME」(光文社)、「名波浩 夢の中まで左足」(ベースボールマガジン社)等著作も多数

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