スポーツライター増島みどりのザ・スタジアム

2024年8月 1日 (木)

「たかはしぃー!ラスト―!!」セーヌ川の水質もなんのその、トライアスロン・高橋侑子の勇姿に声援を送る

31日パリ トライアスロン女子は予定通り午前8時から予定通り実施する、水質基準はクリアした、と早朝、メッセージが入ったので朝食会場のバナナを掴んで「アレクサンドル3世橋」(トライアスロン会場)に向かってホテルを出た。途中の橋の上から、「昨日は大腸菌が大幅に増加した、というのに基準値がわずか1日でそんなに改善するのかなぁ?」と、空が曇っていたためさらに濁っているように見える水の流れを見下ろした。
 
 日本からただ1人出場した高橋侑子(相互物産)は、法政大で私の心もとない講義に付き合ってくれた学生の1人だ。「トップアスリート論」を受講した高橋が「私もいつかトライアスロンでトップアスリートになって、取材してもらえる舞台に立ちます」とレポートに書いてきたのをよく覚えている。遠征の度に「レポートで代替えしたいのですが課題を出して頂けますか?」と、向学心を持った学生だった。
 卒業後は企業の支援を受け32歳で迎えた今大会は東京に続いて五輪2大会連続出場を果たした。「トップアスリート」として積み上げた立派なキャリアに心から敬意を抱く。
 東京五輪でやはりお台場の水質が問題になった際、海外での試合では必ずしも基準値クリアが厳格ではない場合もあり「結構、’いろんな水’を飲んじゃったりするんです。後から体調を崩して、あぁ、やっぱりあの水ね、なんて・・・だから私はそんなに敏感ではないんです」と、笑って教えてくれた。
 くすんだ茶色のセーヌ川を力強く進む高橋のたくましい泳ぎをテレビ画面でずっと追った。最後のランに臨んだ時、届くはずはなかったけれど沿道から「たかはしーぃ!ラスト―!(前と)詰めて!」と声をかけ拍手を送った。パリであんな大声を出すとは思わなかった。
 結果は(スイム=1・5キロ、バイク40キロ、ランニング10㌔)2時間2分42秒で55人中40位だった。優勝したフランスのボーグランからは7分47秒離されたが、大舞台でやり切ったと思ったのだろう。ゴール後、少しだったが彼女らしい控えめな笑顔が見えたから。私は、セーヌ川での水泳は回避してラン2回とバイクの「デュアスロン」で、この日2種目目の取材会場へ。

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増島みどり プロフィール

1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年、フリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬五輪など現地で取材する。
98年フランスW杯代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」(文芸春秋)でミズノスポーツライター賞受賞、「GK論」(講談社)、「彼女たちの42・195キロ」(文芸春秋)、「100年目のオリンピアンたち」(角川書店)、「中田英寿 IN HIS TIME」(光文社)、「名波浩 夢の中まで左足」(ベースボールマガジン社)等著作も多数

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