スポーツライター増島みどりのザ・スタジアム

2024年7月31日 (水)

フェンシング加納の金、総合馬術団体「初老ジャパン」の銅に拍手しながら街を走る 今大会最年長はスペインの65歳

パリ30日  サッカー女子日本代表「なでしこジャパン」が、パリでドラマチックな逆転試合で熱気を運んだのか、パリの気温が上がったようだ。
 オリンピックであちこちの競技場に行くためにこ公共交通機関を使う。バスで座席をとってホッとしていると隣の女性に「大丈夫?」と優しく声をかけられた。フランスに入って1週間過ぎたが残念なくらい元気。座ってリュックに顔を埋めていたから心配してくれたようだ。でも、見ず知らずの他人の、しかもバスでの様子をそんな風に注意しているなんてすごい観察力、と驚いたが、職業を聞いて心から納得した。
 彼女は馬のトレーナーをしていて今大会に「参加」している。南半球の国から参加した25歳は実家が牧場を経営。小さい頃からずっと動物と親しんでこの仕事に就くことを決めたというチャーミングな女性だった。動物の気持ちが分からなければできない仕事、人間の表情を読むなんて彼女には何でもない配慮なんだろう。
 「日本の3位、私もベルサイユ宮殿にいたんだけれどものすごく祝福されていたわよ。もちろん私もお祝いしました!もしかしたら銀メダルだったかも!、凄いわよ、ほんとに」と、私よりはるかに喜んでくれた。

 テレビ中継でベルサイユ宮殿で行われた総合馬術のクロスカントリーを観た。
 「ゲームス・ワイド・オープン」と街も人も開かれたオリンピックを最大のテーマに掲げた組織員会にとって、世界遺産での競技実施は最大のアピールポイントだ。険しいコースを馬と走り抜け、ほかに2つの種目(馬場馬術と障害)もこなす。日本は馬場馬術とクロスカントリーの2種目を終え(28日)3位とメダル圏内に。しかし2種目終わった時点での場体検査(馬の健康をチェックする)で北島隆三のセカティンカ号が出場保留とされ、日本は2度目の場体検査を棄権。北島とセンティカに変わって田中利幸とジェファーソン号で最終種目に臨む。ここで減点20を受け5位に後退しながら3位を掴み取った。
 48歳の大岩義明(グラフトンストリート号)、戸本一真(41、ヴィンシー号)、北島隆三(38)、田中利幸(39)は自分たちが欧州で積み重ねた苦労も人生のキャリアか清々しく明かし、自分たちを「初老ジャパン」と形容した。
 馬術競技だけではなく、フェンシングエペでも加納虹輝(こうき)が地元フランスのボレルを決勝で下しての金メダルと、オリンピックでなければ広く知られるチャンスのない競技が大躍進を見せる。時にはバスで、時にはメトロで、或いは別の会場で感嘆し、拍手をする毎日だ。
 「初老」が注目を集めているが、今大会の最年長出場選手は、オリンピック公式インスタグラムによれば、馬術スペイン代表のフアンアントニオ・ヒメネスコボの65歳だ。
 何よりも日本には12年のロンドン五輪では(08年の北京五輪に続いて)日本の史上最年長出場記録、71歳で代表入りした法華津寛氏もいた(五輪では当時歴代3番目の年齢)。法華津さんは当時の会見で「オリンピックのような素晴らしい舞台に立って活躍できれば、同年代のじいさんたちの励みになるでしょうかね」とユーモアたっぷりに話していた。
 欧州に拠点を置き長く生活する馬術代表や、フェンシング発祥の国の実力者を倒した26歳。メダル数を喜ぶだけではなく、日本のオリンピック選手たちの魅力を改めて教えてくれる。
 ナントでは、サッカー男子日本代表がグループリーグ最終戦でイスラエルとキックオフ。こちらは「23歳以下」の若きサムライたち。

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増島みどり プロフィール

1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年、フリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬五輪など現地で取材する。
98年フランスW杯代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」(文芸春秋)でミズノスポーツライター賞受賞、「GK論」(講談社)、「彼女たちの42・195キロ」(文芸春秋)、「100年目のオリンピアンたち」(角川書店)、「中田英寿 IN HIS TIME」(光文社)、「名波浩 夢の中まで左足」(ベースボールマガジン社)等著作も多数

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