スポーツライター増島みどりのザ・スタジアム

2024年6月11日 (火)

「最終予選は別次元の戦い。あってはいけない躓き(つまづき)を経験した悔しさを活かす」 森保監督が会見で見せた温和と険しさ正反対の2つの顔

 森保監督が試合前の国歌で涙をこぼしたのは初めてではないが、この日は別の理由もあったようだ。監督は会見で「広島だから、ということではないですが・・」と照れくさそうに前置きして、「(いつも試合前は)国歌を唄って試合に臨める日本人としての誇り、幸せがあふれ出て来る。きょうは、現役時代、指導者として広島在籍時の大きな夢でもあった素晴らしいスタジアムを造って頂き、皆さんに応援をして頂けて感極まって2重の喜びに涙が出てきました」と涙があふれそうになった理由を温和な表情で説明した。
 サンフレッチェ広島が初めてJリーグを制覇した2011年以降、新スタジアムの機運は優勝回数とともに熟成。実に37万筆の署名が集まり政財界の協力体制のもと新スタジアムの建設が叶っただけに、監督にとって「原点」ともいえる場所への凱旋、サポーターのチャントを含む監督への声援、その前で2次予選を全勝で突破できた感慨は特別なものだったに違いない。
 日本代表はこれで2次予選を6戦全勝で突破。前回カタール大会を目指した2次予選も全勝で突破しているが、今回の無失点(前回は2失点)は大きな収穫のひとつだ。今後最終予選の抽選会が行われ、6カ国による最終予選(3次予選)の組み合わせが決定する。48カ国と出場国が拡大する26年の北中米大会の最終予選方式が変わる。その質問に答える監督の表情は、柔和な表情で涙の理由を話したのとは一転、極めて険しい顔になった。
 前回も6月の2次予選を全勝で終えた後、東京オリンピックを挟んで始まった9月からの最終予選の初戦、ホーム(吹田)でのオマーン戦で日本は0-1で敗戦。続く中国戦で1-0で辛勝したものの、3戦目のサウジアラビア戦でまたも敗戦し、最終予選頭の冒頭3試合で2敗を喫しスタートダッシュに大きく躓いた痛恨の敗戦の経験が表情を険しくなった理由だ。
 「前回の最終予選であってはいけない躓きで悔しい経験をしている。戦術的な準備は(3カ月では)もう難しいが、最終予選は別次元の厳しい戦いになる」監督は痛恨の2敗をそう振り返る。
 今回のルールでは6カ国中上位2チームに入ればそのまま出場権を獲得する。一方で、抽選の結果、例えば中東の国々がまとまる可能性や、北中米大会の初出場に向けて並々ならない意欲と費用で強化をはかってきた東南アジア諸国が牙をむいてくる可能性もある。国内の選手、スタッフにとっても移動が厳しいうえに、夏が終わってスタートする欧州各リーグでプレーする選手たちにとっては気温差や環境の変化など不確定要素が多いのは常に変わらない難しさだ。「出合いがしら」の敗戦は当然覚悟しなくてはならない。
 ミャンマー戦、シリア戦でメンバーをフルに招集し3バック、4バックの可変にチャレンジ。シリア戦でも堂安、中村のウイングバックで攻撃的な持ち味を発揮させるなど、90分で多くのオプションを手にしたのは最終予選への「荷作り」である。すでに予選突破を決めた消化試合でもあるこの2試合の攻守で積んだ荷物は、日本が目指す「まだ見ぬ景色」ベスト8以上を見るための様々な用意ならば、森保監督、スタッフ、選手たちにとって最終予選に向かうこうした緊張感の共有こそ、システム以上に2試合のもっとも大きな収穫だったのかもしれない。

 

 

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増島みどり プロフィール

1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年、フリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬五輪など現地で取材する。
98年フランスW杯代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」(文芸春秋)でミズノスポーツライター賞受賞、「GK論」(講談社)、「彼女たちの42・195キロ」(文芸春秋)、「100年目のオリンピアンたち」(角川書店)、「中田英寿 IN HIS TIME」(光文社)、「名波浩 夢の中まで左足」(ベースボールマガジン社)等著作も多数

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