スポーツライター増島みどりのザ・スタジアム

2024年5月11日 (土)

「選手たちにおめでとうと言いたい。素晴らしい試合をした」→負けたアルアイン、クレスポ監督のコメント?! 植中は「(同点ゴールの)ヘディングで決めるのはなかなかないんですが・・・」

○・・・パリ五輪世代期待の植中朝日が同点ゴールをヘディングで決めた。前半からクロスが入っているのになかなか飛び込んで行けなかった自分がふがいなかったのだという。マンオブザマッチを獲得して会見に出席し「自分がゴールをしたというよりも、中に入れなかったので次はとりあえず入り込んで行こう、と(決めて飛び込んだ)。(ヤンマテウスの)素晴らしいクロスに、本当に合わせるだけでした。ヘディングで決めることもなかなかないんですが・・・。きょう、相手のリーチの長さなど分かったので次は大丈夫です」と照れながら振り返った。会見で並んだキューウェル監督も「(見ている皆さんは)なぜもっとゴールが入らないのかと思うかもしれない。でもサッカーでは本当にそこが一番難しい。きょうも植中が素晴らしいヘディングを決めてくれた。もちろんもっと取ってくれたらよかったけれどね・・・」と、植中を見ながら笑って決勝でのゴールを促しているようだった。
                

                    「選手におめでとうを」
 アルアインの追加点はVARでオフサイドと判定されて取消され、反対に後半、渡辺が決めたゴールはVARでオフサイドはなくゴールとなる。キューウェル監督が会見で「ご存知のように、サッカーは何が起きるか分からないスポーツなので・・・」と、1点リードで臨むアウェー戦を警戒した通り、ピッチのあちこちで様々なハプニング、アクシデントが起こる180分(プラス)。そして究極の対応力が勝負を分けるのは間違いなさそうだ。そうしたなか、1戦目で印象的だったのは、マリノスのキューウェル監督とアルアインのクレスポ監督の姿だ。2人ともスター選手で代表選手、世界のサッカーシーンでゴールに向かうメンタルを体現してきた同世代のフットボーラー2人がアジアNO1クラブをかけて闘っている。

 ホイッスルが鳴った瞬間、クレスポ監督は両手を握ってガッツポーズをした。ピッチに歩み寄ると、両手を広げ、大きな拍手を繰り返して選手たちを労い出迎える。まるで勝利チームのように。速報インタビューで「選手たちにはおめでとうと言いたい。素晴らしい試合をした」と胸を張り、会見でも「まだ前半を2-1で折り返しただけ。半分に過ぎない。ホームでの優勝に向けて自信を持っている」と闘争心を言葉で表した。
 リスクを負って攻撃にかけるマリノスのDFをカウンターで襲うプランは当たったが後半、運動量がおちた時間帯をマリノスに捉えられた。しかし交代は後半の1枚だけだった。会見で質問されると「交代の必要がなかったからだ。危険な場面はなかった」と言い切った。元アルゼンチン代表FWの言葉はロッカーではもちろん、相手国の記者に対してどう話したのか、メディアを通じてバスに乗る頃には選手に伝わっているのだろう。マリノスにではなく負けても選手たちに「おめでとうを言いたい」と言ったクレスポ監督が2戦目に何を仕掛けてくるのか。
 キューウェル監督の「強さ」も特別だ。準決勝1戦目で韓国の蔚山に0-1で敗れ、迎えたホームでも前半で数的不利を負った。しかし「サッカーは諦めたらそこで終わりだ」(2戦目の試合後のコメント)と、豪雨のなかで選手と魂のサッカーを展開。2戦合計3-3とされ延長を守り抜き、最後はPK戦で11人の相手を突き放した。
 その試合後、会見で「マリノス初の決勝に向けて何か選手に伝えることは?」と質問すると、穏やかな笑顔を見せてこう言った。
「とにかく、どんな状況であっても楽しむことだ。サッカーをやっていて、決勝に進出できる者などそういないのだから」
 選手だけではなく自身も「決勝に進出した者」として楽しむと答えた短いコメントにサッカー観がのぞいた。
 
 アルアインに2-1で先行した11日、会見を終えたキューウェル監督とスタジアムの通路ですれ違った。監督に「おめでとうございます。楽しまれましたか?」と聞くと監督は振り返って胸のあたりを抑えた。
 「ありがとう、もちろんです!」

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増島みどり プロフィール

1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年、フリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬五輪など現地で取材する。
98年フランスW杯代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」(文芸春秋)でミズノスポーツライター賞受賞、「GK論」(講談社)、「彼女たちの42・195キロ」(文芸春秋)、「100年目のオリンピアンたち」(角川書店)、「中田英寿 IN HIS TIME」(光文社)、「名波浩 夢の中まで左足」(ベースボールマガジン社)等著作も多数

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