スポーツライター増島みどりのザ・スタジアム

2023年9月30日 (土)

サニブラウン・ハキーム 陸上界の将来と自らの使命に「DAWN GAME」の主催を発表 30日のトライアルにはインターハイ3位もパラ選手も一緒に出場

30日=江東区夢の島競技場 陸上男子100㍍で、今回のブタペスト世界陸上で世界選手権2大会連続入賞(7位、6位)400㍍リレーではアンカーを務めて5位入賞に貢献したサニブラウン・ハキーム(24=東レ)がオフを使って約100人の子どもたちと「サニブラウン スピードトライアル」を開催し、トークショーで交流もはかった。小学生は50㍍、中高生は100㍍を走ってそれぞれもっとも速いタイムの選手を決定。イベントにはスポンサーも付けず、夢の島競技場の4時間の使用料、手弁当での人件費など全てサニブラウンが自ら支払う独立したイベントとしたところに、サニブラウンの独自性や、これからのスプリンターとしての目標、夢、自身が言う「野望」が込められていたようだ。
 イベント終了後には、メディア数十名を相手に自ら作り込んだパワーポイントで地区予選で代表者を決め全国規模で行う「DAWN GAME」(DAWNは日の出や始まりの意味)を主催する計画をプレゼンテーションした。フロリダ大在学中に、スポーツマネージメント学科の講義で「トップ選手のセカンドキャリア」について学び、「ケガなどでいつ引退する結果になるか分からない。そのためにも自分が将来何をしたいかは考えておいたほうがいい」との講師の助言、また、思う結果は出なかったが無観客で行われた東京五輪でスポーツの価値、応援される意味をじっくり考え続けたという。
 「初めてなので試合より緊張します」とパワポを扱いながら、次世代の選手育成、陸上の人気獲得を目的にする活動を解説。優勝者らには外国でサニブラウンと一緒に練習見学や世界最高峰の競技会「ダイヤモンドリーグ」の視察といったチャンスを提供することなどを検討している。
 「子どもたちには、夢と希望とチャンスを与えて、自分が今立っている位置まで来られるような道しるべを示してあげたい」と、夢と希望に「チャンス」を加える。

「DAWN GAME」以外にも、街なかでの100㍍対決といった新しいアイディアが湧いている。
 多くの選手が競技外のこうした取り組みを行っているが、現役としてもっともパフォーマンスが高まる24歳という年齢でこうした活動を行うのは稀だ。競技との両立について「現役時代にやることで意味づけられる。子ども達から刺激をもらって、また来年も頑張ろうと思う」と話す。
 この日は定員100人に対して、応募が400~500人に達し、今夏のインターハイで3位と好成績を収めた福島・光洋高校の菅野凌平も参加し10秒75で高校の部で一番だった。また、義足のパラ選手や、聴覚障害をもつ選手も手話通訳者と参加し、サニブラウンは「色々な人が参加してみたい、という気持ちになってくれたのがうれしい。陸上競技ならではの姿をお見せできたのではないかと思う」と多様性も尊重する。
 24歳の若者が真摯に描く陸上界の現在と未来が示される好イベントだった。

 

 

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増島みどり プロフィール

1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年、フリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬五輪など現地で取材する。
98年フランスW杯代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」(文芸春秋)でミズノスポーツライター賞受賞、「GK論」(講談社)、「彼女たちの42・195キロ」(文芸春秋)、「100年目のオリンピアンたち」(角川書店)、「中田英寿 IN HIS TIME」(光文社)、「名波浩 夢の中まで左足」(ベースボールマガジン社)等著作も多数

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