スポーツライター増島みどりのザ・スタジアム

2023年9月10日 (日)

板倉と冨安 代表初コンビとは思えぬ落ち着きとクレバーな連携が象徴する個とチームの「現在地」

 森保監督が言う「全員守備、全員攻撃」のコンセプトを、昨年のW杯とは異なるメンバー、違うアプローチで再び表現した試合となった。
 前日会見での宣言通り、4-2-3-1のこれまでもっとも回数の多いシフトでスタートすると、前半終盤には、2-1のままラインを下げない選択肢として今年6月シリーズ(エルサルバドル、ペルー戦)で練りあげた4-1-4-1に。ハーフタイムに、ドイツのサネに前半何度も割られた左サイドの枚数不足修正を検討。後半頭から三笘をサネにほぼマンマークで付ける形で4バックプラス1枚に変更すると、さらにDF谷口を投入して伊藤をひとつ外に出す5バックも採用した。攻守でのTPOを踏まえたシフトチェンジを、優勝国ドイツを相手に主導権を握りながら展開した試合運びは、4-1のスコア同様に勝利にインパクトを与えた。
 「良い守備から良い攻撃」(森保監督)を掲げるなか、守備の安定性、連動はこの試合のカギだった。昨年のドイツ戦と守備陣が大きく異なっていた。GK権田修一、Dの吉田麻也、長友佑都、酒井宏樹4人が代わり板倉一人に。W杯では3バックになった後半入った冨安とのスタートは、実は日本代表では初めての組み合わせ。
 「トミと組んだのはA代表では初めてだったんですね。注意したのは、集中力を切らさず、常にいい判断をしていこうという点。前半枚数がたりなくなって割ら伊れた(ドイツのFW)サネのサイドの修正を、後半5枚にした際も、スライドに気を付けようとトミとずっとコミュニケーションを取れていた。試合に入ってみないと分からない中、帰陣を早くするなど試合の中での修正や対応を、ドイツ相手にできたのが良かった。4-1だからねぇ」
 板倉は収穫をこうあげてほっとした笑顔を見せた。
 冨安は、縦パスやサイドチェンジでも力を存分に示し、板倉とのコンビの精度を試合中に高めていった。また前半終了間際にはサネが抜け出したピンチでは冨安が追いかけてブロック。バイエルンのエースのシュートを抑えガッツポーズを見せた。
 板倉との初コンビにも「ラインを下げず、コンパクトに保つ」と意識しながらラインコントロールを仕切った。

 前半の2点、カウンターで奪った後半の2点とも、昨年の勝利は違う攻守のバリエーションが生んだゴールだった。
 ドイツ戦で連続2ゴールをあげた浅野は「あれは9・5割、タケ(久保)のゴールですから」と笑ったが、浅野、田中のゴールを導いた久保のDFでの踏ん張りを見ると先発と交代選手を分ける従来の枠組みではなく、2つ、または3つの特色あるチームを活かそうとしているのが分る。

 可変をこれほどスムーズに行いドイツを翻弄させた要因について監督は「選手が凝り固まったひとつのアイディアではなく、試合の中で賢く対応し、修正能力を発揮したこと。もうひとつが、新しくなったコーチ陣、分析スタッフの素晴らしい準備。ドイツの傾向と対策への整理が素晴らしかった。まだまだ上を目指し、次のトルコ戦に臨みます」と話した。個人の、チームの現在地を、メモにはどう記しただろうか。代表は一夜明けた10日、練習と現地の日本人学校の子どもたち約100人と交流を行いトルコ戦(キリンチャレンジ)に向けてベルギーのゲンクに向かう。

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増島みどり プロフィール

1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年、フリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬五輪など現地で取材する。
98年フランスW杯代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」(文芸春秋)でミズノスポーツライター賞受賞、「GK論」(講談社)、「彼女たちの42・195キロ」(文芸春秋)、「100年目のオリンピアンたち」(角川書店)、「中田英寿 IN HIS TIME」(光文社)、「名波浩 夢の中まで左足」(ベースボールマガジン社)等著作も多数

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