スポーツライター増島みどりのザ・スタジアム

2023年6月 4日 (日)

陸上日本選手権最終日 110㍍ハードルで泉谷が13秒06の日本記録を樹立 高山と共に世界陸上代表に 日本の障害種目が大躍進

4日=大阪・ヤンマースタジアム長居 今夏のブタペスト世界陸上代表選考会を兼ねた陸上の日本選手権最終日が行われ、男子110メートルハードル決勝では、日本記録保持者の泉谷駿介(住友電工)が、自身が持つ13秒06の日本記録を0秒02更新する13秒04(向かい風0.9㍍)の日本新記録で今大会3連覇を果たした。この記録は、今季世界ランキングでも2位に相当する好記録。2位には、高山峻野(ゼンリン)が13秒30で入り、ともに、世界選手権の参加標準記録(13秒28)を突破したうえで、日本選手権の3位以内との基準を満たしたため、今大会で代表に決まった。
 泉谷は、5月21日のセイコーグランプリでも、向かい風の中で安定したハードリングを見せて日本記録に迫る13秒07をマーク。レース後、「中盤以降の脚さばきをしっかりと練習してきた成果が出せて嬉しい。今季、記録と技術の安定両方で結果が出て、自信になった」と充実ぶりを話し、12秒台と、世界陸上でのこの種目初の決勝進出への手応えを聞かれると「はい、見えてきました!」と笑顔を見せた。
 かつては世界ともっとも開きがあるとされた「障害種目」で、泉谷が世界ランキングをリードする日本記録で世界選手権代表と決め、高山がこれに続く。また今大会では、3000㍍障害の日本記録保持者(8分9秒92)三浦龍司(順大)が8分21秒41で3連覇。既に参加標準記録(8分15秒)を突破しており、3位以内に入り世界選手権代表に決まるなど、日本選手にとって不利とされてきた障害種目の躍進は、新しい時代の到来を示している。
 標準記録が10秒00と高く、まだ突破者がいない男子100㍍が行われ、今季好調を維持して大会に臨んだ坂井隆一郎(大阪ガス)が、10秒11で優勝し初めて、「日本最速の男」のタイトルを手中にした。アキレス腱痛で棄権が頭をよぎったというほど深刻だったが、それでも、「地元の日本選手権でどうしても勝ちたかった」と、痛みへの負担をかけないようなりラックスした走りを心掛けたという。
 レースには9秒台を持つサニブラウン・ハキーム(東レ)、小池祐貴(住友電工)、伸び盛りの柳田大輝(東洋大)ら強敵が揃ったが、「(ライバルが出てくる)中盤、冷静に走ろうと思っていた。標準記録を何とか切って世界陸上代表に選ばれたい」と、アキレス腱、ふくらはぎにテープを巻いたまま、喜びに涙をにじませた。
 サニブラウンは、スタート前に足がつるような感覚に見舞われたために加速することはなく、このレースの最下位となる8位(10秒59)だった。
 「それでも2日間で3本のレースを走れて収穫はあったしいい経験でした」と前向きに捉えていた。2位に入った柳田(10秒13)は「絶対に勝ちたかった」と、しばらく号泣。しかし「坂井さんが速かったといえばそういうこと。自分の詰めの甘さが出てしまった」と、新たな課題に目を向けていた。

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増島みどり プロフィール

1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年、フリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬五輪など現地で取材する。
98年フランスW杯代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」(文芸春秋)でミズノスポーツライター賞受賞、「GK論」(講談社)、「彼女たちの42・195キロ」(文芸春秋)、「100年目のオリンピアンたち」(角川書店)、「中田英寿 IN HIS TIME」(光文社)、「名波浩 夢の中まで左足」(ベースボールマガジン社)等著作も多数

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