スポーツライター増島みどりのザ・スタジアム

2023年3月25日 (土)

「120分の6ーー26年W杯へ厳しいサバイバルレース始まる ギラギラ感を出して欲しい」森保監督の実感がこもった言葉

 船出には激しい雨となったが、26年北中米W杯に向けて日本代表がスタートした。ウルグアイに先制されたものの、後半1点を返して追い付く展開で、FIFAランキングで上回る南米の強豪と引き分けた。
 試合後、森保監督は会見にまだ髪の毛も濡れたままの状態で出席。「攻撃と守備にトライしていく中で、先制される難しい状況の中で粘り強く戦えたことは、サポーターのお陰」と、6万人以上が詰めかけ、全席解禁となった声出し応援で選手をサポートしたファンにも感謝を示した。
 試合は個人技と、堅い規律を守るウルグアイが前半、バルベルデのゴールで先制。DFラインには、W杯を経験した板倉滉が入ったが、22歳の瀬古歩夢は代表初出場、右サイドの菅原由勢は初先発、左サイドは伊藤洋樹、と、W杯とは大きく変わったDFライン、中盤との間に大きなスペースを与えてしまいウルグアイに突破された。
 しかし、森保監督は「初戦の大事なテーマは粘り強く戦うこと」と、FIFAランキングでも日本を上回る16位の(日本は20位)強豪との試合を位置付け、指示。26年を目指すチームの強固な背骨にしたかったようだ。
 後半、伊東純也が交代で入って右サイドからの展開が一気に増えた際には、上田綺世がDFを引き付けて走り込み、交代で入ったばかりの西村拓真はそのスペースに走り込んでファーストタッチでゴールを奪って同点に。「私が伝えるというより、状況を見極めて、匂いを嗅ぎ分けて、狙いを持って入ってくれた」と喜んだ。
 監督自身、試合を振り返り「W杯以来4か月ぶりの試合で、実践を遠ざかっていたのでもの凄く緊張した」と、心境を吐露して苦笑いした。WBCも他人事ではなかったようだ。「胃がキリキリするような戦いを見ていて、自分も国際試合を、覚悟を持って戦わなければいけないなという緊張感が(WBCから)続いていた。(想定外の出来事があったか、と聞かれ)私の緊張です」と明かす。日本代表で初めて4年以上の任期となった監督の言葉には、引き続き、ではなく、新たに、との思いが込められていた。
 4年前の18年、森保監督の初戦となったコスタリカ戦に先発したメンバーで、4年後のこの日も先発できたのは、キャプテンの遠藤航と堂安律のわずか2人。当時の代表メンバー全体でも最初の招集から4年後に残ったのは6人。監督が4年間で代表に呼んだメンバーは五輪世代も含めて、過去の日本代表でも最多の120人にも及んだ。それだけの選手に、それぞれ与えられるアピールの時間には限度ある。120分の6。たった5%しかサバイバルできない、W杯を目指す厳しい競争が始まった。「若い選手、経験の浅い選手にはよりギラギラ感を持って、成長してもらい、代表の戦力になってもらい、日本が選手層を厚くした上で最強のチームを作っていきたい」(監督)ギラギラ感とは監督の感覚なのだろう。強い言葉に聞こえた。

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増島みどり プロフィール

1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年、フリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬五輪など現地で取材する。
98年フランスW杯代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」(文芸春秋)でミズノスポーツライター賞受賞、「GK論」(講談社)、「彼女たちの42・195キロ」(文芸春秋)、「100年目のオリンピアンたち」(角川書店)、「中田英寿 IN HIS TIME」(光文社)、「名波浩 夢の中まで左足」(ベースボールマガジン社)等著作も多数

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