スポーツライター増島みどりのザ・スタジアム

2022年12月 1日 (木)

W杯カタール大会 スペイン戦(日本時間2日午前4時)を前に「日本戦2戦2勝のパンダが、日本勝利を予想?」少ない方に賭けるメンタル

ドーハ1日午前=日本時間1日午後 カタールのスポーツ専門チャンネル「beIN」は、W杯の中継や前もの、試合後の分析や討論会、レジェンドが登場するかと思えば、サポーター同士がチャントを披露したり、本当に盛沢山のプログラムがほぼ24時間放送している。日本代表の取材を終えて部屋に戻ってから、22時キックオフの試合や朝方の仕事でもテレビを点けたまま、言葉は分からないが楽しんでいる。
 中でも試合前に流れる「パンダ占い」が面白くて仕方ない。
 中東で行われる初のW杯を中国が祝福してジャイアントパンダを贈り、2頭はドーハ郊外にあるパンダ専用の超豪華な館でリッチに暮らしていて、名前は京京と、四海らしい。番組ではその日行われる4カード(グループリーグはあす2日まで連日4試合)それぞれ、パンダに占わせ、番組には予想以上の大きな反響があるそうだ。パンダはユーモラスな音楽とともに2枚の国旗が貼ってある窓ガラスに向かってのしのし歩いてきて、旗の前でどちらかを手か鼻で触る予想。はじめは、何か美味しそうな匂いを仕込んであるのか、と疑って見ていたが、ドイツ戦の前には迷いいもなく日本に手を置き、コスタリカ戦の前はコスタリカの旗にドンと鼻をぶつけた。WINNERを購入する方必見。
 そして今、ドーハ時間の午前10時過ぎ、スペインと日本の旗に向かってきたパンダは、日本に大きな手をドンと置いた。おー!このパンダ、大胆に「少ない方に賭ける」勝負師のようだ。


 大会前、日本がグループリーグを突破しない、を予想する人が7割以上とのデータを見た。職業柄、「少ない方に賭ける」専門家として、スポーツで確率や過去をあてにしても、「まさか」は実にひんぱんに起きると知っている。「どうせ勝てない」「無理に決まっている」といった考えは、まだ見ぬ景色に対する恐れの裏返しだ。できっこない、無理に決まっている、と自分に言い聞かせることで、現在地を動かないで済む自分にどこか安心している。しかし日本代表とは、そうではない。今回のW杯に限らず、常に「内なるまだ見ぬ世界」へ、先陣を切って突っ込んで行く存在だ。
 
 06年のドイツ大会初戦のオーストラリア戦に敗れた翌日、何か取材ができるわけではなかったが、日本代表のホテルに行ってみた。すると、ジーコの10番のユニホームを着たフラメンゴサポーター数人がいた。「ジーコ、ジーコ!我らがジーコ」と叫んでいるのを見て、初戦に負けてもうW杯は・・・と、少ない方に賭けていない自分が情けなかった。彼らはブラジルと、ジーコが指揮する日本を応援するんだ、とカナリアのユニホームとフラメンゴの2つを持っていて、しょんぼりする私と一緒に行った記者は「初戦に負けて、だから何だ!苦しい時にジーコを応援しないなんてあんたたちクレジーだよ」と、ポルトガル語で叱られた。今でも、よく思い出す。
 ドイツに勝利した時、解説で来ていた井原正巳氏に会った。1998年、日本のW杯初戦、それがW杯優勝国のアルゼンチン戦だったのだと、どれほど厳しく、困難な試合だったろう、と今さら思った。負けた、勝ち点0と言われるが、中田英寿氏は、アルゼンチンの屈強な選手たちをフィジカルでも吹っ飛ばしていた。最初のW杯優勝国との対戦で、もし彼らがアルゼンチンに怖気づいて、球際で及び腰のままコテンパンにされていたら、今回、ドイツ戦に勝てたのだろうか。
 02年日韓大会前、大会直前に盲腸を患って出場はほぼ不可能と思われた小野伸二にも昨日プレスセンターで会った。18歳でフランス大会の代表に選ばれた意味を、激痛に耐えてでも果たしたから、W杯史上初の16強進出が達成された。彼らは「少ないほう」にいつだって果敢に前進してくれた。今だに、取材者の自分にとって彼らが勇気の証であるように、日本代表は今大会の代表選手にとっても勇気の道標だ。長友佑都は「先輩方が自分にかけてくれた言葉を自分が今後輩にいう時」と言った意味だ。そして今大会の日本代表が、人々にとってそういう存在になって欲しい。勝ち負けはその後だ。


 コスタリカ戦直後に書いたが、「多額の借金」を背負ったドイツ戦から8日で、全くタイプの違う優勝国と対戦するのは容易ではない。未知ばかりで怖いだろう。出場回数だけでもドイツは20回、スペインは16回、日本は7回。ベスト8を「まだ見ぬ景色」という以前に、日本には未経験の試合は数えきれないほどある。相手は「まだ見ぬ景色」を先人からつないでえW杯でほぼ全て見ているのだから。
 スペイン代表も勝ち点3を奪いに来ると、エンリケ監督が前日会見で明言した。2位抜けすればトーナメントでブラジルにあたらずに済むのでは?という質問に、顔を真っ赤にし、持っていたボールペンを振り回して「何を言ってる?」とばかり怒りを表した。「日本とコスタリカが勝てば我々は敗退するのに、試合中に2位を狙おうなんて相談するのか?」と。
「佐伯夕利子が明かす「同級生」ルイス・エンリケ監督の信念と優しさ」フットボリスタ
https://www.footballista.jp/special/150179
さて、パンダはドイツ対コスタリカ戦の予想をドイツ勝利とした。ということは・・。

 

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増島みどり プロフィール

1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年、フリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬五輪など現地で取材する。
98年フランスW杯代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」(文芸春秋)でミズノスポーツライター賞受賞、「GK論」(講談社)、「彼女たちの42・195キロ」(文芸春秋)、「100年目のオリンピアンたち」(角川書店)、「中田英寿 IN HIS TIME」(光文社)、「名波浩 夢の中まで左足」(ベースボールマガジン社)等著作も多数

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