スポーツライター増島みどりのザ・スタジアム

2022年12月 4日 (日)

「やると決めたら覚悟を決めてやり切るのがこのチーム」スペイン戦でW杯にデビューしたDF・谷口彰吾

3日、ノックアウトステージが始まった。勝ち点7でA組を首位通過したオランダと、2戦を引き分け3試合目で勝ち点3を奪ってB組を2位で抜けて16強に進出したアメリカの対戦は3-1でオランダが勝ち、オランダは3位となった2014年ブラジル大会以来7回目の8強(準々決勝)を決めた。
 グループリーグ初戦でサウジアラビアに敗れたものの、2,3戦目に勝ってノックアウトステージに駒を進めたアルゼンチンは、日本とアジア最終予選を戦い、今大会初めてアジア3か国突破の一角となったオーストラリアと対戦。メッシのゴールなどで2大会ぶりの8強となった。

反対に、2日まで厳しいグループリーグ(GL)では、初の冬開催でシーズン中に行われるW杯にはなかった結果となった。日本がドイツ、スペインと優勝経験国を破り、サウジアラビアも、優勝経験国アルゼンチンに勝利。2日には優勝候補筆頭のブラジルが、GL突破を決めていたとはいえカメルーンに敗れる波乱もあり、各国の実力が拮抗している。
 A組のエクアドル、C組メキシコ、D組のチュニジア、E組ドイツ、F組ベルギー、G組カメルーン、H組のウルグアイが勝ち点4を獲得しながら16強には進出できなかった。ウルグアイのスアレス、ベルギーのデブライネらが顔を覆って大粒の涙を流しているシーンを見ると、改めてW杯の厳しさを教えられる。
 スペインのエンリケ監督は試合後、「ドイツとコスタリカの途中経過を聞いていたかって?そんなものを知ったら(途中、コスタリカがドイツをリードしていたためそのままならスペイン、ドイツが敗退する結果に)心臓発作を起こしたかもしれない」と、真顔で答えていた。日本も同じだろう。もし「三笘の1ミリ」がなかったら・・・・

 スペイン戦に先発出場した谷口彰吾が3日、取材に対応し、前日2日の完全オフには応援に来ている両親と会い「スペイン戦でいいものを見せてもらった、と言われました」と、照れくさそうに、でもリラックスした表情で笑った。森保監督によると、2日の休養日は食事の時間も好きにズラせるように、スケジュールも解いたそうで、選手たちの表情はリラックスしているように見えた。
 谷口はスペイン戦の5バックでW杯にデビューし、守備の安定感など、出場機会がない時にどれだけ入念な準備をしてきたかを伺わせた。ドイツ戦では前半1点にしのいだとはいえ、次戦は、スペイン戦で守備の3枚をともに守った板倉滉が累積警告で出場停止に。「滉はしっかり体を休めて次の試合につなげて欲しい」と気使った。
 スペイン戦ではボールポゼッションが2割を切る時間帯もあるなど、完全にボールを支配されたまま試合が展開した。忍耐のすえ、少ないチャンスをものにするリアクションサッカーについて、選手たちからも「日本サッカーの今後を考えていくうえではこれだけではもうひとつ上にはあがれない」といった声はこの日もあがった。
 しかし、今大会ベスト8以上の目標を果たすためにドイツ、スペインを破り勢いを掴んだ日本代表に、今求められているのは勝利。谷口は「やると決めたら覚悟を決めてやり抜く、というのがこのチーム」と、話す。勝ったからこそ描ける理想と、目の前の難敵という現実の狭間でも、きっと様々な新しい光景が見えているはずだ。

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増島みどり プロフィール

1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年、フリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬五輪など現地で取材する。
98年フランスW杯代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」(文芸春秋)でミズノスポーツライター賞受賞、「GK論」(講談社)、「彼女たちの42・195キロ」(文芸春秋)、「100年目のオリンピアンたち」(角川書店)、「中田英寿 IN HIS TIME」(光文社)、「名波浩 夢の中まで左足」(ベースボールマガジン社)等著作も多数

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