スポーツライター増島みどりのザ・スタジアム

2022年11月28日 (月)

ワールドカップ第2戦目の鬼門 ドイツ戦で負った多額の借金返済に苦しんだ試合 「まだ何も得ていない。まだ何も失っていない」吉田主将

 W杯で4度の優勝を誇るドイツに逆転勝ちをすれば、世界ランキングで30位のコスタリカには勝てるに違いない、と思ってしまう。ドイツ戦に勝った選手たちに気の緩みがあった、そんな指摘もされるかもしれない。「魔法」は3日で解けてしまった、とも表現できる。0-7と惨敗して中3日でどん底から這い上がってきたコスタリカを見るまでもなく、世界中で勝ち抜いた32か国だけが出場できる場所は厳しく、そして過酷なところなのだと改めて現実を突き付けられる試合だった。

 酒井宏樹、冨安健洋のもも裏のケガなどで、ドイツ戦の先発メンバー5人を交代して臨んだ日本は前半からリズムを掴めない。トップ下でドイツ戦では存在感を見せた鎌田大地のボールタッチはミスが連続、疲労と焦りからボランチのポジションまで深く下がってしまう。ワントップで期待された上田綺世は、ボールを収められない。ドイツ戦で同点ゴールを決めた堂安もシュートに持ち込めず、立ち上がり、5バックを選択したコスタリカの横長な強固なブロックに苦しめられ、枠内シュートは0本。終了間際には、森保監督の指示で3バックに変更するも、決定的なチャンスがないまま前半を終えてしまった。
 後半から、森保監督はメンバー交代で試合を動かそうとする。長友佑都と伊藤洋輝を交代し、ワントップの上田綺世と浅野拓磨を交代。17分には、山根視来に代えて三笘薫を投入した。序盤10分で日本がシュートを立て続けに打つなど押し込んだが、36分、左サイドから危ないボール運びとなり、吉田麻也が中途半端なクリアで、これを拾うために守田英正がスライディングしたボールが相手へのパスになる。コスタリカは拾ったこのワンチャンスを、フラーがゴール隅へシュート。権田修一の手をかすめ、シュートわずか4本で、これを決勝点とした。
 森保監督は試合後の会見で、「後半(交代選手で)、よりパワーを持たせ、ある程度狙い通り進められたとは思う。ボールを持って試合をコントロールした。仕留めることができれば良かったが、残念ながら我々よりも相手がチャンスをものにした」と、放ったシュート14本に無念さをにじませる。この3日間、選手は集中し、もちろん気の緩みもなく、練習でコスタリカ戦の準備を粛々とした。多くのメディアに囲まれても、口々に「0-7で敗れたコスタリカがどれほどの気持ちで来るかを覚悟しなくてはいけない」「ドイツに勝っても負けても、組み合わせが分かった時点からコスタリカ戦が大事とずっと準備してきた」と、難しい試合を想定は間違いなくしていた。 
 ドイツ戦から5人のメンバー交代は、ベスト8を狙ううえでもかねてから監督が想定した総力戦の一部だったが、出足ひとつ取っても、ほぼコスタリカの後発になっていたフィジカルや、吉田の中途半端なクリアに象徴される判断ミスは、ドイツ戦に勝つために背負ったいわば多額の「借金」が理由ではなかっただろうか。

 「僕個人としても、チームとしてもミスが多かった」と、鎌田は試合後、悔しそうに言った。左サイドハーフでW杯初先発しデビューした相馬勇紀はセットプレーのキッカーも務めながら精度を欠いた。「引かれた相手に対して後ろで動かすだけでなく、入っていく主体性が足りなかった」と、反省した。
 失点シーンを振り返った吉田は、「繋げると思った。ドイツ戦で自分たちがやった守備ブロックを(コスタリカが)していた。プレスは中途半端で、徐々に良くないところが出た結果」と、映像を確認したという。
 日本代表のW杯の歴史で2戦目が鬼門となってきた。7大会中、2戦目に勝ったのは02年の日韓大会のロシア戦のみ(この時は初戦のベルギー戦に引き分けた)。ベスト16に入った10年南ア大会も初戦でカメルーンに勝ったが次のオランダには0-1で敗れ、同じく16強に進出した前回ロシア大会も初戦でコロンビアに勝ったが、2戦目のセネガル戦は引き分けだった。初戦、2戦目をものにして、グループリーグ突破に王手をかける。これもまた「まだ見ぬ景色」のひとつだったが、観られなかった。
 過去最高を上回る8強以上を目指すため、12月1日午後10時(日本時間2日午前4時)グループリーグの最終戦で、2010年大会覇者のスペインと対戦する。ドイツがスペインに勝てば、全チームが1勝1敗で並ぶ大混戦となり、スペインが勝てば2勝で突破に大きく前進はするが、それでも決まらない。
 決勝ラウンド進出まで、「まだ何も得ていない、まだ何も失っていない」吉田は顔をあげた。

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増島みどり プロフィール

1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年、フリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬五輪など現地で取材する。
98年フランスW杯代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」(文芸春秋)でミズノスポーツライター賞受賞、「GK論」(講談社)、「彼女たちの42・195キロ」(文芸春秋)、「100年目のオリンピアンたち」(角川書店)、「中田英寿 IN HIS TIME」(光文社)、「名波浩 夢の中まで左足」(ベースボールマガジン社)等著作も多数

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