スポーツライター増島みどりのザ・スタジアム

2022年11月23日 (水)

W杯カタール大会 コロナ禍前最後の国際大会 19年のドーハ世界陸上以来のハリーファ国際スタジアムのプレスセンターで 

ドーハ22日午後1時=日本時間22日午後7時半 地下鉄の改札を出たところで「メッシ」が円陣で5人うずくまっていた。代表の会見から移動中で他会場の結果は見ていなかったので、アルゼンチンの10番のユニホームを着た5人組の様子にもしや・・・と思いメッシ1に聞くと顔を覆って「負けた、サウジアラビアに!」と、両手を広げる。メッシ2が「それも2点続けて取られた逆転負けだよ」と、怒って言う。5人とも、大混雑していた最寄り駅から、日本代表がトレーニングを行っているキャンプ地最寄り駅までぼんやり歩いてきたそうだから憔悴しきっていた。「次頑張って」と、声をかけたがメッシの円陣はまた座り込んでしまった。W杯が始まった。
 日本代表の前日記者会見は、今大会で初めて設置されたメインプレスセンターで行われ、吉田麻也主将が海外のメディアに流暢な英語で答える様子を、森保監督が横で「麻也、英語スゴイなあ・・・」と見つめているのが分かる。緊張感漂う会見中もこんな場面がふと訪れる瞬間も面白い。それにしても、日本のメディアの人数は多く、FIFA(国際サッカー連盟)に聞くと、(人数の詳細は取材カードの配分なので明らかにされないが)、ジャーナリストだけで150人以上は取材許可証を持っているようだ。
 FIFAによると「これは世界トップ5には間違いなく入っています」という大人数で、上位国はブラジル、ドイツ、イングランド、フランス・・・メディアの数だけなら代表より一足早く、W杯優勝国に肩を並べて食い込んだベスト8は「新しい景色」ではなく、国際舞台ですっかり見慣れた景色なのかもしれない。日本サッカー協会がFIFAの理事国として力を維持し、多くの重要な国際大会を成功させ、16強が最高で、しかもすでに日本企業がスポンサーにいない状態でもベスト5に匹敵するメディアにアクレディテーションが出ているのは、ピッチの力を同様に積み重ねた政治力の恩恵だろうか。FIFAのメディア担当として司会を仕切る側でも、日本のスタッフ2人が存在感を発揮する。

 19年のドーハ世界陸上でも使ったハリファー国際スタジアムのメディアセンターは、試合1時間前になって大混雑している。コロナ禍でスポーツが突然止まる大打撃を受ける直前、19年10月、最後の大きな国際大会の取材だったので、今度はここにW杯で戻ることができ、特別な思いだ。22日の練習後、日本のスタッフが「ワクワクが止まりません!」と、こちらに向かって大きく手を振った。そんな気持ちをあと少し噛みしめてキックオフを待つ。日本対ドイツ戦ピッチの気温は、22度に設定されるようになっている。

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増島みどり プロフィール

1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年、フリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬五輪など現地で取材する。
98年フランスW杯代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」(文芸春秋)でミズノスポーツライター賞受賞、「GK論」(講談社)、「彼女たちの42・195キロ」(文芸春秋)、「100年目のオリンピアンたち」(角川書店)、「中田英寿 IN HIS TIME」(光文社)、「名波浩 夢の中まで左足」(ベースボールマガジン社)等著作も多数

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