スポーツライター増島みどりのザ・スタジアム

2022年11月26日 (土)

 W杯カタール大会コスタリカ戦前日 「三笘薫の貯金箱」緊張でも緩みでもなく、代表に漂う明るさ

ドーハ26日午前11時半=日本時間26日午後17時半 天候晴れ、気温32度、湿度43% グループリーグ2戦目のコスタリカ戦をあす27日に控え、日本代表が公式練習をキャンプ地であるアルサッドで行った。冒頭15分のみ公開され、非公開となった。そこまでの間、酒井宏樹、冨安健洋はピッチに立っていない。約1時間半の練習を終え、ドーハ17時半(日本時間23時半)からは森保一監督と、遠藤航が公式会見に臨む。
                 

                  「三笘薫の貯金箱」

 サッカー協会は今大会、練習場での取材を非公開にする一方で、練習後は、取材対応のためのミックスゾーンには連日選手を呼んで多くの取材機会を作っている。また仕事の時差を考慮した上でさらにドーハ時間の午前中にはオンラインで短い囲み取材の場を設定しており、6時間時差というなかなか難しい時間帯でも多くの情報がドーハから提供されている。25日は練習時間が午前中になったために、オンラインの取材はできなかったが、20時30分から、選手は食後だと思うが、取材対応の機会がわざわざ設けられた。担当は板倉滉と三笘薫。2人は昼のミックスゾーンにも対応していたから取材のダブルヘッダ―をこなしてくれたことになる。
 三笘に、「背番号9について、特別な思い入れがあるか」との質問があった。
「筑波大2年でつけた番号で、その年には天皇杯で(仙台を破るなど)活躍した年だったので・・・思い入れというか、憧れの番号で、小学校の時には貯金箱を作ったりしていましたね・・」
 オンラインだったが、三笘の表情はなんだか楽しそうで、憧れの番号の後に、なぜだか急に「自作の貯金箱」の話に飛んで、え?と笑っていた記者たちも多かったと思う。話は一端終わったのだが、9番の貯金箱がどんなもんかとても気になって追加で質問した。以前の三笘であれば「その話はもう・・・」と言われるかと思ったが、またシャイな笑顔でちょっとうつむきながら、小学校の自由研究で作ったペットボトルの貯金箱に、大好きな番号「9」を入れたと明かす。「もうどこかに行っちゃった?」と聞くと「はい、行っちゃいました」と、また笑った。
 貯金箱は別として、三笘がこうした「サッカーに関係のない話」を、自らふとした様子が印象的だ。ここまで日本代表がどういう場所か、自分をフィットさせればいいのか、普段の自分でいいのか、色々考えただろう。肩の力が抜け、こういう「無駄な話」をできる時、選手のメンタルが充実しているのはよく分かるような気がした。
 板倉も、ひざのリハビリを経て一層たくましくなった。丁寧に、質問者の意図を汲んで「ダブルヘッダ―」に対応。選手たちは気が付かないかもしれないが、26日午前の公式練習でも、こうしたちょっとしたユーモアからミックスゾーンで大きな笑いが起きる場面が多かった。

 吉田麻也は、午後1時からの試合について聞かれると、やはり「日差し」がどうなるのかを気にして情報を得ようと思っているとした。「エアコンが壊れていなければいいですが」と、合間にこっそり笑いを挟み、相馬勇紀は、自分が支える立場だったドイツ戦から「次は自分がピッチで示したい」と力強く言った直後、「ここで色々言っちゃうと分かっちゃうか・・・」と、取材記者たちを笑わせた。

 ドイツ戦で決勝ゴールを決めた浅野は、前回のミックス対応の際にはシュート練習をして来たため汗だくだった。この日は話し始める前に「前回汗だくすぎて、きょうはシャワー浴びてから来ました」と軽いジョークで挨拶。選手のユーモアやちょっとしたコメントに挟まれるウイットに、ミックスゾーンで何度も笑いが起きた。吉田が「コスタリカ戦に向けて精神的な準備をしてきた」と言う意味は、緊張でもなく、気の緩みでもなく、自然体で相手と交わえる余裕を指したのだと思う。

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増島みどり プロフィール

1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年、フリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬五輪など現地で取材する。
98年フランスW杯代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」(文芸春秋)でミズノスポーツライター賞受賞、「GK論」(講談社)、「彼女たちの42・195キロ」(文芸春秋)、「100年目のオリンピアンたち」(角川書店)、「中田英寿 IN HIS TIME」(光文社)、「名波浩 夢の中まで左足」(ベースボールマガジン社)等著作も多数

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