スポーツライター増島みどりのザ・スタジアム

2022年4月21日 (木)

クラブの存続のピンチ、不安を乗り越えて力強い演技を見せたトップ、朝日生命・山田千遥 パリ五輪へ一歩目

 東京五輪に出場した畠田、エースだった村上茉愛、村上とともに日本の女子体操界を支えた寺本と、長く日本女子体操界をリードした3人が一気に引退するなか、東京五輪の選考にあと1歩届かなかった19歳が、パリ五輪代表に控え目に、しかし力強く一歩を踏み出した。朝日生命の山田千遥(ちはる)は、得意の平行棒からスタート、13.766 点の高得点で波に乗った。床では、13・133点と、初の13点台に乗せるなど、パワーよりも、長い手足を活かして魅せる演技に得点も積まれた。
「1位通過で終わるとは思わなかったので」と、試合後は本人も取材ゾーンで驚き、恥かしそうな様子で首をすくめる。昨年の東京五輪を目指した選考会で7位だった悔しさを忘れず、パワーに変えたようだ。
「あの時(1年前は)、DスコアもEスコアも足りなかった。今回も緊張に負けてしまったり、代表を意識するあまり失敗するんじゃないか、と不安になって、練習中に泣いてしまうようなこともあった」と、体操だけではなく、精神的な弱さにも取り組んできた結果だという。
 20日には、所属する朝日生命体操クラブ(東京都世田谷区烏山)に対して、朝日生命が、体育館の耐用年数を超えた点、東京五輪に代表を出せず、女子体操強化の使命は終えた、との2点から、パリ五輪前の2023年3月で48年続いた協賛の撤退を発表。選手たちもまだ知らされていなかったタイミングだっただけに、本来ならば、今後の活動を考え、精神的な動揺が試合に悪影響をもたらすところだった。また足首の痛みもあったという。

 劇的な世代交代というよりも、上位が体育館を去って、のびやかな様子ですっと上位に飛び出してきた山田と、2位に入った宮田も個性あふれる体操選手だ。決勝は23日に行われる。

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増島みどり プロフィール

1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年、フリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬五輪など現地で取材する。
98年フランスW杯代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」(文芸春秋)でミズノスポーツライター賞受賞、「GK論」(講談社)、「彼女たちの42・195キロ」(文芸春秋)、「100年目のオリンピアンたち」(角川書店)、「中田英寿 IN HIS TIME」(光文社)、「名波浩 夢の中まで左足」(ベースボールマガジン社)等著作も多数

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