スポーツライター増島みどりのザ・スタジアム

2022年3月23日 (水)

「犬の散歩と、洗濯物の取り込み」ルールを守るというサッカー番外編で分かる森保監督の勝負論 23日午後公式会見と練習

23日=シドニー(天候晴れ、気温24度、湿度70%) 勝てば、1998年フラン大会で初出場を果たして以来7大会連続でのW杯出場が決まるカタール大会出場をかけて、日本代表は24日(午後8時=日本時間10時)オーストラリア、シドニーでのアウェー、オーストラリア戦に臨む。23日午後には森保一監督の公式会見と、夜にはスタジアムでの公式練習が行われる。
 22日早朝には、DF吉田麻也やFW伊東純也、MF久保建ら21が人現地に到着し、同夜遅くに、招集された選手のうち最後のフライトでシュミット・林が合流した。これで南野、川島、柴崎を含めて全26選手がシドニー入りした。
 勝てば出場が決まる大一番を前に、神戸の大迫勇也、浦和の酒井宏樹、セルティックの前田大然がケガやコンディション不良で辞退。非常事態ともいえる状況だ。
 一方オーストラリア代表にも欠場者が相次いでいる。22日にオーストラリアサッカー連盟(FFA)が発表した内容によれば、セルティックに所属するMFトム・ロジッチは怪我で、セントラル・コースト・マリナーズのDF、キー・ロウルズが新型コロナウイルス陽性反応を示したため、オーストラリア代表を辞退した。昨年、日本で行われたオーストラリア戦(2-1で日本勝利)の際の先発メンバーから早くも5人、特に中盤の3人が出場できない。
 選手と同様に、新型コロナウイルスの検査で陽性を示したグラハム・アーノルド監督は、自宅での隔離中に犬の散歩に出たと報じられ(地元ラジオ局から発信)して、オーストラリアサッカー連盟から約220万円の罰金を科せられた。FFA広報担当は、問い合わせに対して、「日本戦のベンチ入りについてコロナの検査判定と合わせて23日の会見で正式に公表する」としている。
 森保監督は対照的だった。今回のオーストラリア戦を前に、欧州を視察し帰国した際、メディアにオンラインで対応した日がある。監督は、代表の強化拠点「夢フィールド」近くのホテルから参加。質問を受けている途中、「すみません、ちょっと待ってもらっていいですか?」と会見を遮った。
 「今、隔離期間中で、(お互いに行き来したり、一緒にならないように)洗濯物を取り込む時間が決まっていて、今なんです、すぐ行ってきますからちょっと待っててくださいますか」と慌てて席を立って、多分、乾燥機から洗濯物を取って戻ったのだろう。「うーん、イマイチ、乾きが・・・」とつぶやいて、会見がスタートするユーモラスな時間だった。
 各国のルールが異なり、代表に科せられたルールも違う。しかし、ルールはあっても「どう守るか」になると、それは個人の解釈だ。犬の散歩は他人とは接触しない、しかも海辺なら迷惑はないだろう、と愛犬とでかけたアーノルド氏と、ホテルの乾燥機に取り込みに行く時間も、決められた通りにやろうとする森保監督。監督の勝負論とは、こうした日常の小さな積み重ねに「絶対に漏れがないよう」全力であたる姿勢にあるのだろう。
 監督は22日の練習後、現地で応援に入っているサポーターに自分からあいさつに行くなど落ち着いた様子だった。監督に、日本代表で、ケガ、体調不良で参加できない選手が相次ぎ大変な大一番になりましたが質問すると「大変なのはどこも皆同じですから、いい準備するだけ」と笑いながら、「心配ない」とばかりに、両手で拳(こぶし)を小さく握った。
 監督にとってのいい準備、には、自分自身が、新型コロナウイルスとの闘いにおいて決められたルールをどこまで厳格に守れるか、そこにもあった。


 

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増島みどり プロフィール

1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年、フリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬五輪など現地で取材する。
98年フランスW杯代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」(文芸春秋)でミズノスポーツライター賞受賞、「GK論」(講談社)、「彼女たちの42・195キロ」(文芸春秋)、「100年目のオリンピアンたち」(角川書店)、「中田英寿 IN HIS TIME」(光文社)、「名波浩 夢の中まで左足」(ベースボールマガジン社)等著作も多数

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