スポーツライター増島みどりのザ・スタジアム

2021年10月12日 (火)

「前向きな采配をしたいと臨んだ」選手もシステム、両方変えた森保監督の大きな変化

 「前向きな采配をしたいと思って臨んだ」ー勝利引き寄せた森保采配

 
 森保監督は試合後の会見に着席するとまず笑顔を浮かべた。前日、同じ場所で翌日の試合について聞かれた際の様子とは違い、勝負に挑んで、大きな山を、まだひとつとはいえ乗り越え、安堵した表情が率直に表れているようだった。

 代表監督に就任以来ほぼ変えなかった4-2-3-1のシステムを、この日は4-4-3に変更。後がないグループ首位・オーストラリアとの戦いを前に打った勝負手は、チームを大きく動かした。「コンディションを優先し、相手のストロングポイントを消し、自分たちの良さを出すためにどういう形がいいかを考えた時に、きょうは(4-4-3のシステムを)これで行こうと思った」と会見で話し、前日には「変わっていない、と(メディアに)思われるかもしれないが、相手も変わるなかで自分たちの良さを出し、相手のストロングポイントを消してウイークポイントを突く」と、システムを変えないという采配への強い信念を口にしていた。
 この日、サウジアラビア戦での失点の一因となった柴崎岳を先発から外した。これまでとは違う決断とともに、中盤の底、アンカー役に遠藤、その前に、守田、田中を置いた。就任以来初めて、選手を代え、システムを代えるだけではなく、両方代える、と、全てで打った一手は、プレッシャーと戦った選手たち以上に、就任から3年を経た監督自身の大きな変化だったように見えた。
 「前向きな采配をしたいと思って臨んだ。選手が積極的なプレーができるように、我慢強く守備ができるように考えた」と話し、自身の去就問題について質問が出ると、「進退でいえば、特にきょうの試合にかかっているとは思っていない。日本代表監督として、毎試合、毎試合、監督としての道がこれで終わるか続くかと(岐路で)思っているので・・」とした。
 11月にはこのシリーズを」一巡するベトナム、オマーンとは2度目の対戦をする。ともにアウェーの厳しさは続き、今後も先行を許した上位を追いかける展開が続く。オンラインの会見では記者たちから「おめでとうございます」「素晴らしい勝利でした」「ナイスプレーだった」と、喜びと賛辞の声があがった。わずか4試合でW杯出場が消えかけた緊迫感はメディアも同じように味わったのがよく伝わり、監督も口にした「皆さんと共闘」する様子を示す好ましい会見だったが、ジーコ監督指揮下のW杯1次予選で、中田英寿、高原直泰ら豪華欧州組が揃うアウェーでシンガポールに一度は同点にされてようやく振り切った試合をふと思い出した。ひどい湿度に苦しめられたのと同じように、ハノイで行われる予定の彼らのホーム戦に向け、ベトナムが静かに牙を研いでいることだけは間違いない。

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増島みどり プロフィール

1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年、フリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬五輪など現地で取材する。
98年フランスW杯代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」(文芸春秋)でミズノスポーツライター賞受賞、「GK論」(講談社)、「彼女たちの42・195キロ」(文芸春秋)、「100年目のオリンピアンたち」(角川書店)、「中田英寿 IN HIS TIME」(光文社)、「名波浩 夢の中まで左足」(ベースボールマガジン社)等著作も多数

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