スポーツライター増島みどりのザ・スタジアム

2021年10月 8日 (金)

東京オリンピックから2カ月以上たどる下降線・・・10月シリーズ目標の勝ち点6も、最低ライン勝ち点4にも届かず最終予選早くも2敗

 12日に埼玉スタジアムで対戦するオーストラリアはこの日オマーンを下し、これでサウジアラビアと並んで3連勝で勝ち点を9に伸ばして得失点差で首位を固めた。1勝2敗でオマーンと並ぶ日本は、サウジアラビアから帰国し時差や気候の違いに対応しなくてはならないが、カタールから入る豪州と条件は同じ。ただし、中4日と短期間での試合に、3連勝と勢いに乗った豪州に対し、2敗目を負った日本にとってメンタルにおいて圧倒的なハンディを負うホーム戦になってしまった。

 森保監督と選手は、試合後大渋滞のジッダで慌ただしく寄宿をし、チャーター便に乗る準備をする最中にオンライン取材に応じた。吉田麻也は、ロシアW杯最終予選でも2敗(UAEとサウジアラビア)を喫した経験を引き合いに出し、「あの時は突破後の敗戦(で2敗)だったが、逆にいえば2敗まではできる、とポジティブに考えて次の試合に向かう」と話した。過去日本代表が突破した5度の最終予選では、「1敗」が突破のボーダーラインとなっている事実を知っての発言だろう。
 また記者からの質問に同意する形で答えた内容だったが、「この負けで2位に入ればいいやというマインドでいる。1位で行っても2位で行ってもW杯はW杯。まだ7試合ある。僕らは巻き返さないといけないけど、可能性としてはまったくゼロになったわけではなく、まだまだ巻き返せるチャンスはある。残り7試合、オーストラリア戦から1つ1つ丁寧に勝っていかないといけない」と続けた。

 敗戦と疲労困憊で痛い敗戦を分析できる状況ではないはずだが、それでも主将としての責任感から会見に対応したのだと思う。また試合後には、サウジアラビアサポーターから「差別的なジェスチャーがあったので1回ケンカした」と明かすように、冷静さも欠いていたはずだ。
 しかしW杯最終予選は、2位でも、とか、3位で決定戦に回る、など皮算用できる前提ではないのははっきりしている。まして「残り7試合」の前提も、スタートダッシュに成功して2か国が勝ち点9と、6点も差を開けられた現状、過去の日本のように予選を残して抜ける可能性もあり難しい。
 森保監督も試合後、「諦めずに努力を続けていけば10戦終えた後に、W杯出場権をつかんでいる(ようになる)。顔を上げて最善の準備をする」と話したが、初戦のオマーン戦で敗れ、中国戦にも辛勝と、3試合を終えても「最終予選」というステージへの照準がチームとして定まっていないように感じる。
 吉田、遠藤、酒井宏樹がオーバーエージで選出された東京五輪決勝トーナメントから、森保監督が指揮をする五輪、代表の2カテゴリーはともに、長い下降線をたどっており流れを変える糸口が見つからない状態にある。
 東京五輪のグループリーグ3戦目のフランス戦は最後まで力を抜かず4-0と圧勝したが、ここがピークとなり、肉体的にも精神的にも、姿の見えない重い疲労感にチームは覆われていった。ニュージーランド戦は0-0のスコアレスドローをPK戦に持ち込み何とか勝利したが、準決勝のスペイン戦は0-1、銅メダルをかけたメキシコとの3決も1-3と、本来ならば右肩上がりで戦うべきトーナメントで、わずか1ゴールしか奪っていない。
 9月2日にスタートした最終予選も、オマーンにホームで0-1で敗れて尻に火が付いた、と思われたが、カタールでの中国戦は先制した後、追加点なく1-0、サウジアラビア戦も0-1と、五輪ノックアウトステージから2カ月間6試合を戦って、日本はわずか2ゴールのみ。代表の主力でもあり、オーバーエージを務めた3人の疲労、高い緊張感で両チームを指揮した森保監督の疲労が、2つのチームにじわじわと広がった印象だ。
 酒井宏樹が「オーバーワークに配慮した」と、代表チーム側の判断でいったん代表を離脱したが、チーム全体が万全の準備をしてもフレッシュな感覚が戻らず疲れ切っている、そう映る。もちろん、長く続くコロナ禍による閉塞感も影響を及ぼしているだろう。

 この10月首位とのシリーズ、「最大勝ち点を」(監督)と掲げた6の可能性も、最低ラインとしていた1勝1分けの勝ち点4も獲得できない以上、何か「カンフル剤」となる一手が必要な時だ。

 

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増島みどり プロフィール

1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年、フリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬五輪など現地で取材する。
98年フランスW杯代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」(文芸春秋)でミズノスポーツライター賞受賞、「GK論」(講談社)、「彼女たちの42・195キロ」(文芸春秋)、「100年目のオリンピアンたち」(角川書店)、「中田英寿 IN HIS TIME」(光文社)、「名波浩 夢の中まで左足」(ベースボールマガジン社)等著作も多数

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