スポーツライター増島みどりのザ・スタジアム

2021年8月22日 (日)

パラの伝説的なアスリートたちが揃って会見「(パラで)東京五輪の金メダル記録を上回りたい」義足の走り幅跳び世界記録保持者、マルクス・レームが意欲

22日=メインプレスセンター(東京ビッグサイト) 24日に開幕するパラリンピック(選手約4400人が出場、22競技)に出場する各国のメダル候補選手たちが記者会見し、今大会への思いやコロナ禍で世界が共に困難に直面するなか、東京でパラリンピックが開催される意義など、それぞれが率直な言葉で会見に集まった世界中の記者たちから大きな拍手を浴びた。会見に出席したのは、義足の陸上男子走り幅跳びで、8㍍62の世界記録を持つマルクス・レーム(ドイツ)、女子パワーリフティングで史上初の3階級制覇を成し遂げたアマリア・ペレス(メキシコ)、両腕のないアーチェリー選手、マット・スタッツマン(米国)、14歳でウガンダただ1人のパラリンピック代表となった、前腕のない水泳女子のフスナ・ククンダクウェ(ウガンダ)、重症の髄膜炎のため両手足を切断したフェンシングのリオ五輪金メダリスト、ベアトリーチェ(べべ)・ヴィオ(イタリア)、今大会から正式種目となったテコンドーの女子58㌔級で、夏・冬(距離スキー)両方で出場を果たした先天性の指の欠損という障害を持つ太田渉子(ソフトバンク)、と、パラアスリート界の世界的な「スーパーヒューマン」と呼ばれる選手が壇上に揃った。
 マルクス・レーム(ドイツ)は、この日が誕生日で33歳に。感染予防対策に息を吹きかけられないため、ろうそくのない小さなケーキだったが、壇上でプレゼントさると「ホントに?」と笑顔を見せ、「(自身が持つ世界記録の)8メートル62超えを目指したい。オリンピックのアスリートたちに挑戦したい」と、先の東京五輪でギリシャの選手が金メダルを獲得した記録8メートル41越え強い意欲を見せた。レームはウエイクボードの事故で右足ひざから下を切断したが、抜群の運動能力、バランス感覚でドイツの国内選手権では健常者を抑えて優勝を果たし、パラと同時に五輪出場を熱望してきた。選手村での生活で、徹底したバブル方式を厳守する選手たちの姿を見て「選手村でも、これだけ多くアスリートがルールを順守している光景は見たことがない。ネガティブや不安な気持ちはなく、すごく良い準備ができていると思う。ルールを守れば、素晴らしい大会になることは間違いない」と、開催に理解を求めた。
 アマリア・ペレスも「日本の皆さんに私たちはみなお礼を言わなければならない。心から感謝している。パンデミックは私に忍耐と希望を与えた」と、1年延期にも前向きに調整し続けたという。
 ネットフリックスオリジナルのドキュメンタリーフィルム「ライジングフェニックス」にも登場する、両腕のないアーチェリー選手、スタッツマンは会見の冒頭「今、ここ東京に来られてどれだけ興奮しているか・・・本当は拍手をして大声を出したいんだが、(両腕がないから)拍手はできないし、コロナで大声も出せないね」と、ユーモアたっぷりに笑い、重かった会見場の空気を一変させた。
 「手がなくてアーチェリーなどできるわけがないじゃないかと言われたが、そんなことはなかった。右足でハンドル、左足でアクセルを踏み、セミプロのドライバーにもなった。私はこういう風に生活している、と皆さんに堂々と見せたいし、日本だけではなく、世界中の人々にそのことでインスピレーションを与えられればうれしい」と答えた。3人の息子にも、失敗しても構わない。挑戦をして欲しいと教育する。
 フスナ・ククンダクウェ(ウガンダ)は、眼鏡に制服が似合う14歳だが、「私自身、このような皆さんと同じ壇上に座っているだけでインスピレーションをもらえて、学校に帰ったら、スターたちと並んだのよ、と自慢しようと思う」と話し、パラリンピックの環境がない同国で、14歳ながら次世代の若い選手たちのために啓発プログラムを立ち上げる準備をする。
 リオで、四肢のない金メダルアスリートとなったヴィオ(イタリア)も、「イタリアを代表してここに来られて感激している。ライジングフェニックスを見たイタリアの若い選手たちが、車椅子フェンシングをやりたい、と言うから、足があるんだから何も車椅子に座らなくてもいいのよ・・・と返したら、あなたに憧れているから車椅子でやりたい、と。私が誰かを、その人生に少しでも何かもたらせたなんてこんな喜びはない」と、会見中、終始笑顔で答えていた。

 壇上には広報担当と6人の選手が並んだ。印象的なのは、誰か1人の選手が話す際には、ほかの5人の選手が体の向きまで換え、そちらをじっと見つめながら話に聞き入って、時にうなずき、共感を示す様子だった。自分のありのままの姿を受け入れ、その姿を堂々と見せる6人のパフォーマンス、パラアスリートたちの超人ぶりと、その自然体両方をテレビを通してでも観戦してもらえれば。

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増島みどり プロフィール

1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年、フリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬五輪など現地で取材する。
98年フランスW杯代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」(文芸春秋)でミズノスポーツライター賞受賞、「GK論」(講談社)、「彼女たちの42・195キロ」(文芸春秋)、「100年目のオリンピアンたち」(角川書店)、「中田英寿 IN HIS TIME」(光文社)、「名波浩 夢の中まで左足」(ベースボールマガジン社)等著作も多数

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