スポーツライター増島みどりのザ・スタジアム

2021年8月 9日 (月)

「日本選手締めの会見は、小さいけれどまぶしい2つの銀で」日本選手のメダル58個の締めは女性陣2つの初銀メダル 最後の会見から

JOC(日本オリンピック委員会)は毎日、前日のメダリストの会見を、選手村近くのホテルで続けてきた。史上最高の金メダル27個を含む、総メダル数58のメダリスト最後の会見が9日午前行われ、史上初めてのメダル(銀)を獲得した女子バスケットボールチームと、自転車オムニアムの梶原悠未(かじはら・ゆうみ、24=筑波大大学院)が出席した。コメントに感じいるのはもちろん、改めて驚くのは彼女たちの小さな体だった。そして共通するのも「綿密な戦略」の勝利だ。
 梶原は身長155㌢。水泳で五輪を目指すも、思った結果を得られず「オリンピックに出られる種目で勝負したい」と、自転車を始めた。厳しいトレーニングは積んだに違いないが、決勝では、最初の種目のスクラッチで大きなクラッシュが起き、これは回避したが、最終種目のポイントレースで接触して転倒。走路にたたきつけられた衝撃でジャージが破れてしまった。会見ではその場面を振り返って「(ルールで先頭が5週以内に戻れば得点に響かず)レース前にコーチと、もし転倒したとしても時間があるから落ち着いていこう、と話していた」と、冷静に深呼吸をしてレースに復帰したと明かした。
 オムニアムは一日で違った種目4つをこなす過酷種目。梶原は「スピード、戦略、持久力、全てを備えていなくてはいけない種目。でも自分の持ち味はそこでこそ生きると思った」と、あえてここを選んだ理由を強調する。外国選手に比して不利に見える体格差を跳ね返して、大学院でも研究テーマにしているという戦略的なアプローチを磨き続けた。

 女子バスケットボールはリオ大会でベスト8に入り今大会はホーバス監督のもと「金メダル」を目標に。会見でも銀メダルのうれしさと同時に、悔しさもこみ上げているようだったが、出場12か国中プエルトリコの1㍍75㌢に次いで2番目に低い身長(1㍍76㌢)で、1・95㍍の先発を揃えた米国や大会の平均身長(182㌢)からも低い。一方、3ポイントでは身長とは反比例する12か国中トップの数字、戦略を持ち味にした。
 準々決勝までの3ポイント成功率は12か国中トップの39・4%。準決勝のフランス戦では22本中11本を決めて50%と驚異の成功率をあげた。3ポイントの確率以前に、パススピードやマークをずらす技術も合わせもった結果だが、予選リーグで米国と対戦し69対86で敗れた試合では3ポイントシュートの確率が26%に落ちている。1㍍62㌢ながらアシスト記録をマークするなどスピードとテクニックを存分に活かした町田瑠唯は「小さいチームでも世界に通用するのは分かった。日本の武器のスピード、3ポイント、運動量、チーム力はこれからも強みにして、プラスアジャストされた時にどう対応するかっていうのをもっとチームとしてやっていけたら」と、精度を課題をあげ、早くもパリ五輪を見据える。
 ホーバス監督は厳しいトレーニングと、トレーニング中に複雑なフォーメーションプレーを連続させていく「脳と体を同時に激しく使い続ける」(監督)戦略的バスケットを徹底した。監督がかつて指導したことのある米国のダイアナ・トーラジは大会中監督に対して「日本のバスケットは本当に魅力的。速くて、創造的」と称賛したと明かした。もともと潜在的な人口は多く、今回の女子の活躍で、上を目指す選手が多く出てくるとすれば、それも銀メダルと同じ価値を持つはずだ。
 日本選手過去最多のメダルを締めた2つの銀メダルに、体格で劣る日本人に、スピードや技術、持久力や粘りといった要素に加え、徹底した戦略という古くて新しい要素があった。

 

 

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増島みどり プロフィール

1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年、フリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬五輪など現地で取材する。
98年フランスW杯代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」(文芸春秋)でミズノスポーツライター賞受賞、「GK論」(講談社)、「彼女たちの42・195キロ」(文芸春秋)、「100年目のオリンピアンたち」(角川書店)、「中田英寿 IN HIS TIME」(光文社)、「名波浩 夢の中まで左足」(ベースボールマガジン社)等著作も多数

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