スポーツライター増島みどりのザ・スタジアム

2021年7月28日 (水)

五輪経験のない「なでしこジャパン」今大会初の勝ち点3はスウェーデンとの準々決勝に何かを与えるか

 前半開始から日本はパワーをかけて、チリゴールを狙いに行った。カナダ戦、イギリス戦とは異なり、ビルドアップからスピード感を持って、さらに縦パスを有効に使ってゴール前に入る。その姿勢は、前半だけで10本のシュートにつながった。しかし、身長182センチの長身と、高いボールにも低いボールにも対応する高い技術で、世界的な注目を浴びるチリGK・エンドレルの好セーブ、身体を張って粘るチリのファイトに何度も阻まれてしまう。
0-0の均衡の中で、ミスをすれば簡単に先制されてしまうような綱引き状態の試合、途中出場したFW・田中美南(27=INAC神戸)が、ミスを取り返した。32分、FW岩渕真奈のポストプレーに田中がゴールに向かって走り込み、右足でシュートを浮かせ先制。これが決勝点となった。田中は「厳しい戦いだったんですけど、全員が戦ったおかげで1点決められた。初戦のPKは外しちゃったんですけど、取り返すことができて、みんなに感謝したい」と、初戦以降ずっと険しい表情だったが、少し安堵したのか笑顔を見せた。

 高倉麻子監督は会見で「(初戦で)PKの失敗はあったけど、パフォ―マンスはずっと良い。そんなことでメンタルが落ちるようなやわな選手ではない」と、FWに揺るがぬ信頼を口にしていた。
 試合後、涙ぐんだ岩渕は「(3試合目にグループ突破がかかった試合に)これまで感じたことのないようなプレッシャーがあった」と心境を吐露。3試合に出場した清水梨紗は、これまで経験したW杯と異なる、中2日の厳しい日程に苦労したと明かし「これまで中2日で3試合をしたことがなかった。コンディションを中2日でもっていく難しさが(3試合を戦い)分かった」と、苦しんだグループ戦を振り返っていた。五輪の経験者は、ロンドン五輪で中心メンバーではなかった岩渕と、DF熊谷の2人のみ。若い清水が明かしたようにフィジカルで、また経験豊富な岩渕さえ涙してしまうような重圧と戦うメンタルとも、2大会ぶりにこの舞台に復帰した今回のメンバーには五輪という経験が不足していた。

高倉監督が、グループ戦で中2日のコンディション調整を慎重に見極め、3試合でメンバーを思い切って変えたのも、「(中2日の)スケジュールを見て、選手をいい状態でピッチに送り出してあげたいし、無駄なケガはさせたくない」との理由で、自らのスタンスを明確に、選手に五輪を経験させ何とか勝ち点4を(米国、オーストラリアも勝ち点4でトーナメントへ)もぎ取った。「誰が出ても変わらないパフォーマンスをしてくれるのは選手の成長あって。対戦相手によって、(違う)味を付ける意味もある」と、選手に全幅の信頼を寄せる。30日に、トーナメント1回戦で、今大会絶好調で、3試合目は選手の多くを温存したスウェーデンと対戦する(埼玉スタジアム)。スウェーデン戦では、これまでの3試合のような「大味」ではなく、繊細な味付けが必要になる。

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増島みどり プロフィール

1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年、フリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬五輪など現地で取材する。
98年フランスW杯代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」(文芸春秋)でミズノスポーツライター賞受賞、「GK論」(講談社)、「彼女たちの42・195キロ」(文芸春秋)、「100年目のオリンピアンたち」(角川書店)、「中田英寿 IN HIS TIME」(光文社)、「名波浩 夢の中まで左足」(ベースボールマガジン社)等著作も多数

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