スポーツライター増島みどりのザ・スタジアム

2021年7月22日 (木)

「4年前の経験を含めて冷静に対応できた」遠藤航 オーバーエージがもたらした我慢と経験の重み

男子サッカーは、波乱の幕開けとなった。日本戦の前に行われたメキシコ対フランス戦は、メダル候補の一角と言われるフランスが1-4と完敗を喫し、他会場ではやはりメダル有力の韓国がニュージーランドに1-0で完封負け。またこちらもメダルを狙うアルゼンチンは、1人退場者を出して黒星で大会をスタート。五輪初戦の難しさだけではない。新型コロナウイルスの感染拡大による様々な影響、高温多湿が体に及ぼす影響、無観客と、これまでとは違った状況の変化やアクシデント、ハプニングに対応するのが、チーム競技でいかに難しいかも浮彫りにするような結果だろう。実際、日本にも、不確定要素はいくらでもあった。南アの検査結果も直前まで不明。また南アはDFラインを固め、ミスを誘うなど、忍耐を強いられる場面の多い試合だった。
森保監督は「他会場の結果、波乱が起きているという話は聞いています」とし、「サッカーは何が起きるか分からないと考えないといけない。全ての状況はあり得る。そしてすべてを乗り越えなくてはならない。自ら崩れることのないように、熱く戦うところと、冷静な部分を持たなければ」と、会見で改めてサッカーという競技の恐さについて触れた。選手たちにとって、「何が起こるか分からない」サッカーを現実にピッチで経験した監督の言葉は、厳しい大会をスタートした今、選手に重く響くに違いない。
試合後遠藤に、前回16年のリオデジャネイロ五輪の初戦、試合会場にあわや遅刻とぎりぎりで到着しアップもしなかったナイジェリア戦の敗戦と、濃厚世職者18人の相手と戦った22日について聞いた。
「前回は予想外のこと、今回は、コロナで(南アの出場が危ぶまれるなどのハプニングはどこの国でも)想定内、予想できたこと。前回の経験を含めてきょう冷静に対応できた結果が1-0だったと思う」そう落ち着いて答えた。
固い守り、球際の強さでDFを象徴する存在として「オーバーエージ」に選ばれたボランチは、4年前とは比べものにならない冷静さを、チームにもたらしていた。南アの巧妙な試合運びと、5人で最終ラインを固めた守備で、「イライラしかねない展開」(森保監督)のなか、吉田、酒井も同じに揺らがなかった。監督は、彼らがいたピッチにどれほど安心感を抱いていたか。
試合後、ロッカーにいたベンチスタートの選手たち全員がピッチに戻るのを待って、円陣で監督が声をかけた。ピッチでは互いに鼓舞しあい、ロッカーでは感染防止に沈黙する。日本代表は慎重に、落ち着いて、確実に、困難な大会のスタートを切った。

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増島みどり プロフィール

1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年、フリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬五輪など現地で取材する。
98年フランスW杯代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」(文芸春秋)でミズノスポーツライター賞受賞、「GK論」(講談社)、「彼女たちの42・195キロ」(文芸春秋)、「100年目のオリンピアンたち」(角川書店)、「中田英寿 IN HIS TIME」(光文社)、「名波浩 夢の中まで左足」(ベースボールマガジン社)等著作も多数

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