スポーツライター増島みどりのザ・スタジアム

2021年6月13日 (日)

なでしこジャパン、選考前最後の強化試合メキシコに5-1「選手が皆結果を出してくれるので(選考に)頭が痛い。心を込めて(代表18人を)選ぶ」高倉麻子監督

13日=栃木・カンセキスタジアムとちぎ(観衆3890人)天候晴れ、気温29・5度、湿度39% サッカー女子日本代表「なでしこジャパン」(世界ランキング11位)の東京オリンピックのメンバー選考を前にした最後の強化試合がメキシコ(同28位)と行われ、日本は過去の対戦でも大きく上回る(6勝1分1敗1分)相手に5-1で勝利した。前半は、東京五輪出場権を逃がしたものの今後を見据えるメキシコが、気持ちのこもったプレーでなでしこに向かうなか、日本はチャンスをゴールにできずに苦しむ。しかし35分、ボランチに入った林穂之香からのスルーパスを、受けた岩渕真奈がドリブルで持ち込み、DFをかわして右隅へシュートを流し込んだ。
 エースの先制点で落ち着いて迎えた後半立ち上がり直後、30秒で岩渕が突破して、中央で田中が飛び込む田中にクロスを供給、田中は点で合わせる右足ダイレクトで追加点を奪った。4分には、メキシコのゴンザレスにゴールを奪われ、今年4月のパラグアイ、パナマ戦(ともに7-0)、10日広島で行われたウクライナ戦(8-0)と4試合目にして初めて失点を喫する。何としても流れを取り戻したい9分、椛木結花が、代表戦4試合連続ゴール(歴代1位タイ)で3-1と突き放し、試合を掌握した。
 その後も、交代で入った木下桃香、遠藤純、と若く有望な選手がゴールを決めて試合は5-1で終了。試合後、高倉麻子監督(53)は「みんなが結果を出すので本当に頭が痛くて(うれしい悲鳴の意味)・・・部屋に帰り、まずため息が出た」と、来週に予定される最終メンバー18人の選考に向け率直な気持ちを吐露した。
 2016年のリオデジャネイロ五輪アジア予選では、04年のアテネから続けてきた五輪の連続出場を逃がし、なでしこジャパンが岐路にレジェンドである高倉氏が、女性で初のA
代表の監督に就任した。五輪に行けなかったチームと、自分自身を鼓舞するように就任会見では「なでしこは、ここで倒れない」と強い姿勢で任務をスタート。4年半かけてここまでたどりついた選手たちに対し、「彼女たち自身の人生がかかっていると自分も受け止めているので、それを踏まえ、心を込めて選びたい。たとえ18人に入らなくても、選手たちへの思いは変わらないし、選手たちの思いを背負って、(自分自身)戦っていく」と、なでしこ、と呼ばれる以前から女子をけん引してきた思いを込めた。

 また、最後まで諦めずに、ボールを追い続け、シュートを打とうとフィニッシュを目指したメキシコが、選考前最後の相手になってくれた巡り合わせに恵まれた。かつて、まだ世界で勝てなかった時代のなでしこたちは、格上の相手に最後まで食らいつこうと、どれほど点差が離れても、この日のメキシコのような姿勢を決して崩さなかった。なでしこの原点ともいえる信条を、選手たちが改めて認識するチャンスになったのであれば、五輪前の強化試合として最高の対戦相手だった。高倉監督は、メキシコの姿に「本当に素晴らしいコンディションで試合に入ってくれた」と感謝を口にした。
 メキシコのモニカ・ベルガラ監督は「日本のようなチームと試合をできたことが、メキシコの将来につながると思う。高倉監督を心から尊敬しているし、女性として初めて、また母国開催の五輪で素晴らしい活躍をされると祈っています」と、ともに、ユース世代からトップにあがった同じ指導キャリアを持つだけに、心のこもったコメントでエールを送っていた。

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増島みどり プロフィール

1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年、フリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬五輪など現地で取材する。
98年フランスW杯代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」(文芸春秋)でミズノスポーツライター賞受賞、「GK論」(講談社)、「彼女たちの42・195キロ」(文芸春秋)、「100年目のオリンピアンたち」(角川書店)、「中田英寿 IN HIS TIME」(光文社)、「名波浩 夢の中まで左足」(ベースボールマガジン社)等著作も多数

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