スポーツライター増島みどりのザ・スタジアム

2020年3月12日 (木)

コロナウイルスとスポーツ・五輪 開催国(都市)の代表は何を発信する時なのか 日本陸連の研修、会見

日本陸連は12日、マラソン代表内定選手男子1人、女子3人と補欠2人ずつ8人による研修(11日)、福島出身の円谷幸吉さんの墓参、五輪前には唯一の機会として設定された記者会見を終え、これら2日間の全日程を欠席した中村匠吾(富士通)、大迫傑(ナイキ)の欠席理由と、中村のコメントを会見終了後に発表した(大迫はなし)。
■欠席理由・中村選手
富士通の全社員に対して新型コロナウィルスへの対策を講じているため
・大迫選手 
新型コロナウイルス感染防止のため

■中村匠吾選手コメント
男女3名の代表選手が決定し、いよいよ本番に向け、気持ちを新たにしています。MGCが終わって半年が経ち、ここまで順調に準備を進めることができています。これもご声援いただいている皆様やサポートしてくださる方々のおかげです。これからも愚直に練習に取り組み、スタート地点に立つまでに出来る限りの準備をしてレースに臨みたいと思っています。これまでと変わらず「オリンピック当日に持てる力を発揮すること」が目標です。そのためには、一日一日、練習を積み重ねていくことが大事であり、その先に、自分が満足できる結果がついてくることが理想です。オリンピックまで、一歩ずつ地道に進んでいこうと思います。
 
 今回、円谷さんの墓参までを含む研修と会見には、中村、大迫2人が欠席する一方、8日の名古屋ウイメンズマラソンで優勝し、最後の1枠を獲得したばかりで疲労が心配された一山麻緒(ワコール)と、最後まで代表の座を争い敗れた松田瑞生(ダイハツ、大阪優勝)が補欠にも関わらず出席した。会見については、マラソンの特殊な合宿、練習環境から、次に話を聞けるのは五輪直前となるとされており、こうした場が設定された。チームという表現にこだわるのは個人競技でおかしな現象で、マラソンの補欠がこうした場所で話すのは酷だろう。
 会見では記者、カメラマン全員がマスクを着用し入り口で手の消毒をするばかりか、事前の体温チェックも了承し、カメラマン、記者と壇上の距離は数メートルも取られていた。またマイクを使い飛沫を出さないように、質問は事前に選手に渡して質疑応答をほとんど行わないようにするなど配慮。中止、延期と世界中で議論されるオリンピック開催国(都市)で、代表選手が、試合や海外合宿でもない、先輩の講和を受ける時間や円谷さんの実兄も交えての墓参、1時間ほどの会見までも「コロナウイルス」を理由に欠席するナーバスさに困惑した。会見だけの話ならどうでもいいのだが。
 代表とは何かを強く教えてくれたのが補欠の3人の出席だったのが印象的だ。会社や山中監督はどんな風に説明したのか察するが、補欠の松田がわざわざ壇上に座らされ涙をこぼして「代表になれなかった」思いを語り、「円谷さんが当時履かれたシューズはまるで草履みたいに薄くて、これで走ったんだと驚いた」と当時を思う思いやりのあるコメントをした。男子の補欠、大塚祥平(九電工)、橋本峻(GMO)も「代表と同じ気持ちで戦っていきたい」と話す様子は、感染拡大などとまったく違った次元で、オリンピックに挑戦する競技者のプライド、その強さを改めて教えてくれるものだった。 

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増島みどり プロフィール

1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年、フリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬五輪など現地で取材する。
98年フランスW杯代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」(文芸春秋)でミズノスポーツライター賞受賞、「GK論」(講談社)、「彼女たちの42・195キロ」(文芸春秋)、「100年目のオリンピアンたち」(角川書店)、「中田英寿 IN HIS TIME」(光文社)、「名波浩 夢の中まで左足」(ベースボールマガジン社)等著作も多数

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