スポーツライター増島みどりのザ・スタジアム

2019年8月31日 (土)

4か月ぶりの復帰5位の内村「試合に合わせる力がなくなっている」とは言うけれど・・・五輪目指し来年4月の全日本へ

内村航平(30=リンガーハット)の6種目(合計83・900点)内訳は、床で1位の14・800点①、あん馬は落下し12・600点㊸、つり輪13・450点㉑、跳馬14・400点⑤、平行棒14・450点④、鉄棒14・200点⑤=〇は種目の順位となった。優勝は、世界選手権(10月、ドイツ・シュツットガルト)代表の萱和磨(22=セントラルスポーツ)で86・100点と2・2点差だった。試合後、あん馬の落下と、鉄棒のミスを「ミスしちゃっているんで。6分(種目)の(うち)2、ミスしているわけで、3分の1ですから・・・肩も腰も少し違和感はあったけれど、言い訳にしかならない。話になんないですね」と自嘲するように笑いを浮かべた。さらに「試合に合わせる力が(以前に比べて)なくなった」と、肩痛からの難しい復帰プラグラムの中でも、練習を十分に積んだはずのあん馬で落下したミスにショックで事態を整理できないようだった。
2週間前には腰にぎっくり腰のような症状を発症、肩に加えてまた「痛み」を抱えており万全ではないなか、14・800を出した床の1位、平行棒4位、跳馬は5位、鉄棒でも一瞬回転スピードが落ちたが5位で、跳馬のEスコアは9点台をマーク。五輪個人総合2連覇を果たしたレジェンドの理想、追求するレベルがどれほどの孤高で「いい復帰だった」とは全く思わないのは理解できるが、自身が「話にならない」と言うほど低調な復帰戦では決してない。落下したあん馬、つり輪の13・4500、また鉄棒のミスなど、失った得点を加算すると、萱との差は埋められる。腰のアクシデントを考えれば、「試合に合わせる力」はむしろ、圧倒的な存在感を示したように見えた。他の選手にはできないだろう。
 モントリオールの世界選手権でケガをして以降、国際大会のシビレるような緊張感、期待、プレッシャーのなかで演技をしていない。以前のように、大舞台で発揮した勝負勘の確認ができないもどかしさはあるはずだ。ただ冷静にミスと得点、減点を見ていけば光明ははっきりと見えた。
 これが今季最後の試合で、次戦は本格的な五輪代表争いが始まる来年4月の全日本選手権になる。内村は5位の表彰式で、あまり経験のないだろう低い表彰台に立った。「パパ~~!」とスタンドから飛んだ愛娘たちの声に笑顔で手を振り、佐藤コーチと2人、全日本シニアの告知版の前で記念撮影をした。優勝した萱をスタンドにアピールしようと手を取った。東京五輪に向ってだけではない。五輪2連覇の偉大な体操選手の本当の伝説とは「これから」なのだろう。

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増島みどり プロフィール

1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年、フリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬五輪など現地で取材する。
98年フランスW杯代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」(文芸春秋)でミズノスポーツライター賞受賞、「GK論」(講談社)、「彼女たちの42・195キロ」(文芸春秋)、「100年目のオリンピアンたち」(角川書店)、「中田英寿 IN HIS TIME」(光文社)、「名波浩 夢の中まで左足」(ベースボールマガジン社)等著作も多数

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