スポーツライター増島みどりのザ・スタジアム

2019年8月27日 (火)

「八村選手を走らせる、どんなパスを出そうかと考えて・・・」39歳のシーズンに挑む田臥勇太のチャレンジ

 田臥勇太(宇都宮)の誕生日は10月5日だから、開幕2日後には39歳になる。この日行われたBリーグの開幕前イベントで、各選手に「NEW ○○」と自分が追求する新しさを書いて欲しいとリクエストがあり、38歳は「NEW チャレンジ」とマジックで書いて空欄を埋めた。
 能代工業を卒業した頃、日本人がNBA選手になれるなどと誰1人考えてもいなかった。そうした中、あれがNBAの扉だったのか、それともNBAという館へ続く遠い門だったのかさえ分からなかったが、ナイキ主宰の世界選抜キャンプに日本人として初参加した。この日、フリップにチャレンジと書くのを見て、あの当時18歳が、何度も、何度も「チャレンジです」と言っていた姿を思い出した。結局、ずっとチャレンジし続けているのだ。
 会見後、10分ほどだが1対1でのインタビュー機会があり、久しぶりに膝を突き合わせて話をした。自分で突破した壁から、次々と若い選手たちが飛び出している。今ではそこに大きな壁があったのさえ、皆が忘れているほどだ。八村塁、渡辺雄太らNBA選手がけん引する日本代表のゲームを観ながら、「もし自分がコートに立っていたらと考えるか?」と聞くと、レジェンドは目を輝かせ、手を動かし、椅子から態勢を変えてパスをする仕草を見せた。
 「本当にその通りなんです。八村君はオールラウンダーで何でもできる。渡辺選手もとても器用ですよね。僕だったら、あぁいう選手たちを思い切り走らせてみたいですね。空中戦ではなくって。走らせてスピードをあげて、その中で相手を翻弄するパスを出してみたいですね。今、自分ならどんなパスを出すだろうとイメージしながら観ているとアイディアが尽きないんですよね。もちろん選手はみんな、日本代表の戦術があってのプレーですし、本当に強くなったなぁと思います。以前だったら引き離されていたところで踏みこたえる、食らいつく。素晴らしいですよね」
 八村や渡辺だから「アリウープ」(空中で受けたパスをそのままダンクする)のような華やかな大技を決める鮮やかなパスか、と想像したが、アシストの名手の選択は、スピードをさらに加速するための走らせるパス。ファンなら胸が躍るだろう。
 さらに胸が躍ったのは、「自分もそこに立ちたいという気持ちはあります。東京(五輪)を目指す気持ちは変わらない」と、この日も力を込めて、同時に笑顔で言い切る様子だった。
 チャレンジの中身は色々ある。しかし、プレーについてのチャレンジは益々細部で磨かれる。
「自分のプレーのクオリティをもっともっと上げたいと強い意欲が湧いてきます。それこそNBAを目指していた若い頃には、ただただがむしゃらだったプレーが、今になるとパス1本出すにも、顔はどう向いているか、ドリブルは1回で出したほうがいいのか、2回ついて出したほうがいいのか、と考えてプレーを選択しようとする。長く続けたから、疑問や課題が次から次へと出て答えが分からなくなる。でも分からなくて難しい分、バスケットボールをまた楽しめると思うんです」
 8月FC琉球に完全移籍した一つ上のJリーガー、小野伸二の移籍先での映像をいくつか目にしたという。
「そういうシーンが使われているんだと思いますが、笑顔がとても多くって。あぁいう姿を観せてもらうだけで、ヨシ、自分もって本当に励みになりますね」
 昨シーズンはケガにも苦しんだが現在コンディションにも手応えを感じている。来年もさ来年もきっと「チャレンジ」を目標に掲げているはずだ。チャレンジの中身は周囲には分からないかもしれない。しかし「永遠のチャレンジャー」には、はっきりと分かっている。10月3日、(横浜アリーナ、対川崎戦)NBAのコートに立ってから15年も続くシーズンが、また始まる。

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増島みどり プロフィール

1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年、フリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬五輪など現地で取材する。
98年フランスW杯代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」(文芸春秋)でミズノスポーツライター賞受賞、「GK論」(講談社)、「彼女たちの42・195キロ」(文芸春秋)、「100年目のオリンピアンたち」(角川書店)、「中田英寿 IN HIS TIME」(光文社)、「名波浩 夢の中まで左足」(ベースボールマガジン社)等著作も多数

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