スポーツライター増島みどりのザ・スタジアム

2019年6月17日 (月)

サッカーコパアメリカ「自分も世界でやっていけるかもしれない、そう自信を持てた」2009年2点をあげた原点のチリ戦に臨む岡崎慎司

15日午後6時(日本時間16日午前6時)=サンパウロ 天候晴れ、気温27度、 コパアメリカ(南米選手権)初戦、同大会2連覇中の優勝候補、チリ戦(17日、サンパウロ・モルンビスタジアム)を前に日本代表はサンパウロのパカエンブースタジアムで冒頭15分間をメディアに公開し約2時間の練習を行った。平均年齢約22歳の五輪代表年代で世界最古で最高と言われるコパに挑む今大会、チームでは最多のAマッチ115試合、代表歴代3位の50点をあげてきた岡崎慎司(33)は「改めて、このコパという大会に出場できることを光栄に思うし、もの凄いやりがいを噛みしめている」と、昨年ロシアW杯以来となった代表招集に強い気持ちをみせた。
  
「自分も世界でやっていけるかもしれない、そう思えたという09年以来のチリ戦に臨む岡崎」

 チリのテレビ局のインタビューを終えると、岡崎が日本の記者が待つミックスゾーンに向ってごく自然に、笑顔で歩き出した。国内だけではなく、サッカーでなければ2度行けないような異国の地で幾度となくこうした時間を共有し、時には敗戦に落胆し、奇跡のような勝利を導いたストライカーの歓喜の声を聞いてきた。そして15日、サンパウロの、2014年のW杯開催以降のスタジアム改築で、むしろ見られないほど古びれた、その分だけブラジルサッカーの歴史や情熱が染みついたパカエンブーの市立スタジアムで話を聞きながら改めて、岡崎の存在感を知った。
 「改めて、ここ(代表)に呼んでもらえた感激、というか、もの凄く光栄だし、南米を相手に南米で試合するやりがいを感じてチリ戦を楽しみにしています。ここで勝てなかったら、W杯では勝てないという最高峰だと思う」
 昨年はロシアW杯にケガを抱えて出場し、レスターでも厳しいシーズンを戦う結果となった。それでもこの日、久しぶりに「いつもの場所」で見た表情は明るく、はつらつとした勢いに満ちていた。若い選手とのゲームになるがそれも「1人1人の個性を活かして力を引き出せるようにプレーをしたい」と前向きに見据え、チリの記者から久保建英のレアル移籍を質問されると、正確な英語で「才能もパーソナリティも素晴らしい選手。自分から見ると(才能にもレアル移籍にも)ジェラシーを感じてしまう」とユーモアで返して、チリの記者たちを笑わせた。久保は発表もされた移籍について「大会中は何も話さない」と前日、現場で取材する記者に言ったそうだが、Aマッチ1試合の後輩のために代表11年の在籍者がミックスゾーンに残り、懸命に、素晴らしい回答をチリ人記者にする。こんな場所でも、若手の良さを本当に引き出そうとしているのだとわかる。
 ちょうど1年前、岡崎は苦境に立たされていた。6月19日のW杯ロシア大会初戦のコロンビア戦を前に、痛めていた足首だけではなく肉離れも抱え、西野朗監督は、浅野拓磨との交代を念頭に、キャンプ地カザンでの最後のチェックに臨んだ。「ここで走れなかったら交代しようと思っていた。ところが奇跡みたいな話が起きてフルメニューを走り切った」と昨年12月の単独インタビューで監督はそう話し、「オカの奇跡的な回復でコロンビア戦に非常に前向きに挑めた」と明かしている。2-1で勝利したコロンビア戦の最後の交代カードは、5分ほどのプレーになったが岡崎で切り、セネガル戦では本田圭佑の同点ゴールを自ら潰れながらアシストした。

 チリ戦について「確か自分が2点か、取ったと思います」と、09年、南アW杯を前にしたキリンカップを丁寧に振り返る。1点目はこぼれ球にラッシュし、2点目は中澤佑二からのスルーで前線に抜け出してゴール。08年に日本代表に初招集され、09年1月には、今回のようにスケジュール調整から若手が派遣された1月のアジアカップ予選(イエメン)で代表初ゴールを決めて115得点への厳しい道もまたスタートした。この年、W杯アジア最終予選を狙う日本代表がキリンカップにチリを招へいした。
 「代表に選ばれ、ここでずっとやりたい、W杯にも出たい、でも自分がっていけるのか、と色々考える時期でした。チリ戦の2点目は、自分でもこういう世界を相手にゴールを決められる、やっていけるんだと自信を持てた原点のゴールでした」
 実際にこの年、代表16試合で15点とまさにブレイクした、忘れがたい1年である。
 10年後、今度アウェーで自らの原点とするチリと対戦できるなら、こんな幸せな偶然もないだろう。誰よりその意味を岡崎が理解している。ケガ、移籍先での出場機会がないなど苦しい時期を抜け出した日本のストライカーは、「どんな苦境も、辛いと思ったことはなかった」と言う。そして「それも人生だ、といつも思っている。サッカーには、まだ経験できていないものばかり。ひとつでも多く経験し、サッカー経験の達人になりたいですね。今、スペインかイタリアを考えるのはそれが一番の理由。経験がないっていうのは自分が成長できるチャンスですから」と、次のステージにも目を向けた。
 15日は無精ひげをたくわえていたので「南米勢相手に迫力を増すため?」と聞くと、「いやいや・・・ひげをそる道具がなくって・・・チリ戦にはちゃんと剃って行きますよ」と、笑った。

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増島みどり プロフィール

1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年、フリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬五輪など現地で取材する。
98年フランスW杯代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」(文芸春秋)でミズノスポーツライター賞受賞、「GK論」(講談社)、「彼女たちの42・195キロ」(文芸春秋)、「100年目のオリンピアンたち」(角川書店)、「中田英寿 IN HIS TIME」(光文社)、「名波浩 夢の中まで左足」(ベースボールマガジン社)等著作も多数

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