スポーツライター増島みどりのザ・スタジアム

2019年6月23日 (日)

日本代表ポルトアレグレから、レンヌのなでしこへ 長時間フライトが少し楽な理由 

23日=フランスレンヌ(時差7時間) 
 ブラジルでのコパアメリカ(南米選手権)ウルグアイ戦を取材し、ほぼ睡眠しないまま早朝、ポルトアレグレの空港へ飛び出し、今、フランスのレンヌの練習場に到着し「なでしこジャパン」の練習に滑り込んだ。途中はかなりややこしいけれど。  
国内線でサンパウロに一端戻り、そこからリスボン経由でパリによたよたと到着すると、丸一日ちょっとかかっている。超過酷な!こんな3路線飛行も、ウルグアイ戦がもし、20年前、コパに初出場した1999年と「同じ勝ち点1」だったら、レンヌまでたどり着く力はどこにも残っていなかったのではないかと思う。
 20年前のパラグアイ大会、日本はリーグ3試合目にボリビアと対戦し、前半でボリビアに退場者が出たにも関わらず引き分けに持ち込むのが精一杯だった。その試合を観ながら、その前年の98年、初めてW杯(フランス)という最高峰に立っても、そことは全く異なる「戦場」が日本の反対側の大陸にあったと教えられた。あの時は、98年、2敗で迎えた3戦目に敗れず(ジャマイカ戦)、勝点1でも取ったのだからこれも3分の1歩前進、と自分を励まし、これから続くサッカーにおけるぞっとするほど時間のかかる進化をどこまで取材できるんだろう、とぼんやり考えたのをとてもよく覚えている。
 20年経って戻った場所もまた同じ勝ち点1ではあった。しかし、前半で数的優位を得ながら守り切られた、或いは攻めきれなかった20年前とは違い、2度先制し2度追い付かれる展開に、わずか1点、されど1点の重みを感じられたのは、20年前のあの深い失望感も取材できたからだろう。27時間かけてパリに着いた時、もちろん年相応の疲れはあるけれど、気持ちは少し軽かった。
平均年齢22歳の日本代表は、毎日、全員がミックスゾーンを通過し取材を学ぶようにしている。コンディションを考えれば、いつものように人数制限をする方法もあるが、これは森保一監督と協会の「日本代表という場所で取材対応も経験し学んで欲しい」とのスタンスからだ。そうした中、スルーしたところで誰もが納得するGK川島永嗣と、FW岡崎慎司が常に通過し、メディアに最後まで対応する。チリ戦完敗の翌日の練習で、最後までシュート練習をしていたのは岡崎で、丁寧なダウンで最後にピッチを上がったのも川島だった。
ウルグアイ戦の起用は決して「べテランの力を借りるためだけではなく、素晴らしいパフォーマンスを練習で見せてくれたから」と、森保監督は試合後話している。東京五輪へのオーバーエージを交えたチーム作りのひとつのサンプルにもなっているはずだ。

「初めて立ったコパのピッチの感想は?」と聞くと、川島は厳しい表情から一転、「もう最高っすね。あのピりピリ感がたまらなかった」と、心から湧くような笑顔を見せた。岡崎は、118試合出場とAマッチ出場歴代単独3位になった。しかし「118試合でも、この1年は出ていなかったし、胸張って誇れるようなものじゃないです」と言った。チリ戦後にも117試合で長友に並んだと聞くと、「1年ぶりの代表に戻れて、きょうが、ある意味代表1試合目と思っています」と、川島と同じように笑顔でうなずいた。
チリ戦ではたった一発お見舞いされたくらいで、まるで経験たっぷりのベテランたちのように下を向き、個のプレーに集中した若い選手たちも、ウルグアイ戦では前を向き、何よりの収穫は「最後までチームで戦う」姿勢を実感した点だったろう。
世界一周周遊券でコパからW杯フランス大会ベスト8をかけて戦うサッカー女子日本代表「なでしこジャパン」に回った。男女代表を追って世界一周なんて、20年前には考えられなかったルートをたどりながら、いつも見たいのは、選手たちの前進にかける意欲なのだと改めて思う。
女子はどうだろうか。23日のレンヌの練習は完全非公開だった。高倉麻子監督は「いい練習ができました」と、25日のオランダ戦に静かな闘志をのぞかせた。

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増島みどり プロフィール

1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年、フリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬五輪など現地で取材する。
98年フランスW杯代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」(文芸春秋)でミズノスポーツライター賞受賞、「GK論」(講談社)、「彼女たちの42・195キロ」(文芸春秋)、「100年目のオリンピアンたち」(角川書店)、「中田英寿 IN HIS TIME」(光文社)、「名波浩 夢の中まで左足」(ベースボールマガジン社)等著作も多数

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