スポーツライター増島みどりのザ・スタジアム

2012年8月22日 (水)

内村航平「応援は、競技場だけでお願いします」人気受難も告白 上月財団表彰式で

22日=東京都内 ホテルリッツカールトン
 
スポーツ・教育・文化の振興と発展を目的とした人材育成や大会の援助などを行ってきた上月スポーツ・教育財団が、設立30年となる12年の「上月スポーツ賞」の授賞式を行い、ロンドン五輪のメダリストたちらが受賞した。また、今年の世界選手権でメダルを獲得した、男子フィギュアスケートの高橋大輔、羽生結弦も受賞し、高橋が「夏季五輪のアスリートに勇気や感動をもらった。ソチ五輪(14年)へ刺激になった」と、日頃交流のない夏季五輪メダリストを前に気持ちを新たにしていた。
 
体操で金1、銀2つのメダルを獲得した内村航平は受賞式後、「自転車で女の子に駐車場から自宅まで追いかけられた。さすがに家まで来られると怖かった」と、五輪後、特に女性を中心としたフィーバーぶりに自身も驚き、「最近は暑いし、体育館までサングラスかけて移動しています」と、どう見てもバレている?「変装」ぶりも明かすなど困惑した様子だった。

「応援してもらえるのはうれしいが競技場でお願いします」内村困惑

 どれほどの行事をこなしているのか分からないほどだろうが、それでも受賞者を代表してあいさつした内村は「日本が史上最多38個のメダルを獲得し、自分もその中の1人なれたことは光栄。これからも全力で頑張りたい」と、早くもリオに向かって気持ちと身体を切り替えてみせる「トップアスリート」の風格を漂わせた。一方で、記者との囲みの取材になると、帰国以来、様々な場所で声を掛けられるのはうれしいものの、自転車で追いかけられるなど行き過ぎた行為に困惑していると本音を漏らした。

 「駐車場から(中学生くらいの)女の子に自宅まで、すみませ~ん!と自転車で追いかけられました。すいません、はボクが言いたいですが・・・そういう状況があまり多くなると困ります」と、自宅までマークされたことに、日頃穏やかな23歳もさすがに驚いたようだ。50万人が集まった銀座パレードでも、同じバスに乗った澤穂希が「内村選手への、キャー!という声が凄かった」と笑っていたように、様々な応援アイテムを準備してまで応援してくれるファンの激増に誰より自身が首をかしげている。

 それも、体操競技の中であれば大歓迎とこの日も強調。

「コナミの体育館の前ではおばあちゃんに、(内村に会えて)‘冥土のいい土産ができた’と言われたので、いえいえ、長生きしてくださいよ、と声かけました」と、ほのぼのしたエピソードを披露するなど、ファンとのふれあいには感激している。一方で、自宅前や駐車場に「張って」いる人も増えているようで、「北京の後は、大学の寮だったこともありましたが、そんなことはなかった」と、静かな毎日を望む。

 もっとも、競技の話になると気持ちは切り替え、来月の社会人選手権に練習を積み重ねている。「疲労も止まっているし、その中でどこまでできるか試してみたい」と、全6種目への出場を明言。帰国してから、ロンドン五輪のビデオもきちんと見て、分析済みという。「これまであんなミスをしたことがなかったので、ビデオを見ながらもう笑っちゃいました。面白いんじゃなくて、こんなにできなかったんだ、と。ただ、それでも何とか立て直し、メダルを取ったことをしっかり受け止めて、次からまたしっかりやらなくてはと思えた」と、ポジティブに話していた。

  内村に限らないが、メダリストたちはロンドン五輪を終えてから、事あるごとに「今なにがしたいか」とメディアに聞かれ続けている。

「静かな日々を取り戻したい」―本心はそれに尽きるのかもしれない。

 「大忙しの寺川綾の、爪」

2大会ぶりの五輪出場で百㍍背泳ぎと、メドレーリレー2つの銅メダルを手にした寺川綾は「疲れていないわけではないと思いますが、それでも毎日、色々な場所でお祝いや歓迎を受けて、その喜びが疲れを感じない理由かもしれません」と、笑顔で話した。

平井コーチに師事してから、一度マニキュアをした爪を叱られた、と以前話していたことがある。ゴールの明暗を分けるかもしれない「タッチ」にかけるべきトップスイマーが手先なんて気にしているなら「本気じゃないのか!」と。ヘアケアのイメージキャラクターに起用されていても、実際には、自分で時々トリートメントをするのが精一杯で、「美容院ももう半年以上行けてないんです」と、戦闘モードをずっと維持していた。

「納得する形で終わったら、少しオシャレをしたいです」と恥ずかしそうに話していたので、競技を終えてもう3週間近く経過しているこの日、指先を見せてと頼むと、きれいに爪を整えているがまだマニキュアはなかった。この日も、表彰と、水泳連盟が契約する「パラマウントベッド」の新製品発表会を、松田丈志と「ダブルヘッダー」と、イベント、表彰に引っ張りだこだ。

「ええ、時間が全くなくて。今は言われるがままに動いている状態で自分で自分のスケジュールを把握していないんです」と笑い、必ず質問される「今後について」も、「とにかく落ち着いて考える時間を取ってからにしたいです」と明言を避けた。

寺川の指先にネイルアートがのぞいたとき、彼女のロンドン五輪もようやく一段落し、「今後」も見え始めるのかもしれない。


 
 

 

上月スポーツ賞受賞者
 
水泳 上田春佳、立石諒、寺川綾、萩野公介、藤井拓郎、松田丈志
体操 内村航平、加藤凌平、田中和仁、田中佑典、山室光史
柔道 上野順恵、西山将士、平岡拓晃
スケート(フィギュア)高橋大輔、羽生結弦
バレーボール狩野舞子、佐野優子
卓球 石川佳純、丹羽孝希
フェンシング 三宅諒
ゴルフ 比嘉真美子、松山英樹 

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増島みどり プロフィール

1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年、フリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬五輪など現地で取材する。
98年フランスW杯代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」(文芸春秋)でミズノスポーツライター賞受賞、「GK論」(講談社)、「彼女たちの42・195キロ」(文芸春秋)、「100年目のオリンピアンたち」(角川書店)、「中田英寿 IN HIS TIME」(光文社)、「名波浩 夢の中まで左足」(ベースボールマガジン社)等著作も多数

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